強首温泉樅峰苑

2004年11月20日(土)

 父が日帰り温泉を趣味にし始め、「秋田の温泉」という無明舎出版のガイドブックを買ってきた。その本をパラパラとめくっていると、重厚な造りの温泉が目にとまった。それが、強首(こわくび)温泉の樅峰苑(しょうほうえん)だった。ガイドブックの写真を見ただけで、その建物に強く惹かれてしまった。

国登録有形文化財 旧小山田家住宅
 それは、江戸時代から続く豪農、小山田家の旧邸で、大正3年(1914年)3月の強首大地震で倒壊した後、3年の歳月をかけて大正6年に竣工した建物だった。邸宅は、敷地面積約2000坪、建築面積約200坪、建物の高さ約15メートルの耐震家屋である。大地震のあとに建てられた家屋だけに、耐震性にはとくに気を配られていて、柱も一際太く重いものが用いられているほか、様々な工夫が凝らされている。屋根は、入母屋造りの千鳥破風で、表玄関の唐破風とともに大城郭を思わせる風格のある造りとなっている。

杉の1枚板を使った玄関前廊下
 表玄関を入るとすぐにピカピカに磨き上げられた廊下がある。ここには、杉の1枚板が使われていて、その長さ20メートル近くに及ぶ。これだけの長さの1枚板を取るのは、さぞかし大変だったろうと思うのだが、それを惜しげもなく使っているあたり、小山田家の当時の豪勢振りが感じられる。

階段と舟底天井
 廊下に続く階段も、見事な造りの装飾が凝らされた手摺と舟底天井だった。廊下といい、この階段といい、ピカピカに磨き上げられたこの木の美しさはどうだろう。磨けば磨くほど光り輝く木の特質がよく活かされている。これだけの建物を維持していくのも大変なことだと改めて思う。

階段手摺の見事な装飾
 階段を上がった2階は宿泊室になっている。昔ながらの造りで、冬はさぞかし寒かろうと思うのだが、このような豪邸に泊まりながら、温泉に浸かっては、雪見酒に興じてみるのも悪くないかもしれない。

温泉の浴槽
 強首の地に温泉が出たのは昭和39年のこと。帝国石油が天然ガス採掘のためボーリングを行ったところ、温泉が出てきたのだ。この温泉を引いて、近隣の人々に農作業の疲れを癒してもらおうと考えて温泉施設を開業したのだそうだ。
 男女別の浴槽は内湯が一つだけで、4〜5人が入れば一杯になりそうなこじんまりとしたもの。お湯は塩泉で、神経痛、リューマチなどの関節痛によく効くと評判なのだそうだ。切り傷や慢性皮膚病にも効能があるという。窓際に苔生した木と植生帯があった。浴槽に浸かりながら、緑も楽しめるという工夫が凝らされている。洗い桶や椅子も木製で趣きがあるものだった。

町指定天然記念物モミの木群
 広い屋敷内に植えられている、樹齢380年を超えるモミの木の一群。高さ30メートル以上、幹周り4メートルの大木で、群生しているのは県内でも珍しいという。その珍しさゆえ、町の天然記念物に指定されている。「樅峰苑」という名もこのモミの木から付けられた。

あきた散歩INDEX