八幡平山頂付近 |
秋田県と岩手県の県境になだらかな高原状の台地をなす八幡平(はちまんたい)は,温泉と高山植物の宝庫である。十和田八幡平国立公園に指定され,訪れる観光客も多いが,1600メートルの高地にあるため,11月の初めには雪で閉ざされる。この日は最後の紅葉を求めて観光客が列をなしていた。
後生掛自然研究路 |
八幡平山頂から標高1000メートル付近まで秋田県側に下りてくると,後生掛温泉が見えてくる。この後生掛温泉の源泉地一帯は,地肌が剥き出しとなり,湯気がもうもうと上がっている。そこに一周約40分の散策路が整備され,誰でも気軽に火山活動を観察することが出来る。ボコボコと地底から吹き上がる蒸気や熱湯は地獄絵図そのままだ。日本一とされる泥火山や大湯沼など見所満載で,40分という時間を感じさせない。
かつて,一人の男に後生を掛けて祈りながら大湯沼に身を投げた二人の女の伝説がある「オナメ・モトメ」の二つの墳気口は,研究路入口付近にある。オナメは妾,モトメは妻のことをいうそうだ。ちなみに後生掛温泉の名前もこの伝説に由来する。
「後生掛けて 逝きにしオナメに又モトメ
香りはつきぬ 岩の石楠花」
後生掛温泉は7つの温泉浴が楽しめる。特にユニークなのが,一人一人木箱から首だけ出して温まる「蒸し風呂」だ。自分も,と思い少しだけ試してみたが,ちょっと熱めで二日酔いの身にはすぐにクラクラとしてしまった。温泉に入るとき二日酔いは厳禁である。また,後生掛ならではの自然に湧き出る蒸気を利用した「サウナ風呂」,全身温湿布作用の「泥風呂」など,他の温泉では味わえないユニークな風呂が沢山あり,この温泉が人気を集めている所以である。かつて混浴だった露天風呂は,時代の趨勢か,仕切りが付けられ男女別浴となっていた。また,外側にも囲いが出来て露天で味わえる開放感が失われてしまったのは残念だった。しかし,床や温泉槽,壁など全てが木で出来ているのが嬉しい。歩くとき木の温もりが感じられるのはいいものだ。
大沼自然探勝路 |
後生掛温泉の近くに,高山植物が咲き誇る大沼自然探勝路がある。残念ながらこの日は,花の季節ではなかったため,高山植物を見ることは出来なかったが,一周約45分の大沼の周りをゆっくりと散策し,所々に残る紅葉とアオモリトドマツなどの針葉樹を心ゆくまで探勝した。穏やかな湖面をたたえる大沼の周囲は背丈を超えるまでに伸びた葦が覆い尽くしていた。大沼脇に建つレークインの入口付近の小さな檻の中に月の輪熊が捕らえられ,閉じ込められていたが,見ていて可哀想な気分になり,すぐにその場を後にした。