紅葉の太平山登山

2003年11月2日(日)

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 平成15年11月2日(日)、職場の上司O氏に誘われ、紅葉真っ盛りの太平山に登った。午前10時、秋田市仁別のザ・ブーン駐車場に集合。森林学習館に向かう道路入口の真向かいに太平山前岳の登山口はあった。昨日から、森林学習館前に市がグランドゴルフ場を整備し、この三連休、施設を無料開放したせいだろう。駐車場は、整理の人が置かれるほどの人出だった。
 さて登山道はといえば、始めは急な上り坂だったが、階段状に整備されているため、登りやすかった。それでも、いきなりの急勾配の階段だったため、登り始めてすぐに心臓の鼓動が激しくなり、息もぜいぜい言っている。日頃の運動不足を痛感した。その階段も、ほんの百メートルほどでおわり、その後オーパススキー場リフト降り場までの約2キロの道は、なだらかなハイキングコースが続いた。足下は、柔らかい粘土質の土で、その上に広葉樹や杉の落ち葉がクッションになって、とても歩きやすかった。また、道の両側には、モミジやカエデ、ブナなどの広葉樹が見事に色づいていた。
 30分余り登ったら、いきなり目の前の視界が開けた。オーパススキー場のゲレンデだ。車も5、6台停まっていた。聞くと、ここまでは林道が通っていて、車高の高い四駆の車なら登って来れるのだという。今日登る前岳までは、ちょうどここが中間点。これから続くという急坂を前に、少し間休憩を取る。同行のO氏によると、ポカリスエット系の飲料水は塩分濃度が人間の生理水に近く、水分補給には最もいいそうだが、直接飲むにはちょっと味が濃すぎるので、真水と交互に飲んでいるという。私もそれに倣うことにした。
 5分ほど休憩して登り始めると、まもなく急な上り坂が目の前に飛び込んできた。ここからは、木の枝や地面などに手をつくこともあるかもしれないと軍手をはめることにした。まだ、元気なうちに写真を撮っておこう。
 話によれば、太平山ではここが一番楽なコースだというが、いやはや何ともきつい上り坂である。一歩一歩登るたびに太ももが張ってくるのが感じられ、全身から大量の汗が流れ落ちてくる。拭っても拭っても追いつかない。ちょっと寒いかと思って厚着をしてきたが、今になってそれを後悔し始めた。中間点から先の登山道周辺は、杉林が姿を消し、ブナ林が中心になるが、周りの景色を見回す余裕もない。
 途中で何度も小休憩を繰り返しながら、何とか見晴らしのよいところまでたどり着いた。その頃には、もう息も絶え絶えという状態であった。ここは、女人堂と言い、前岳山頂の少し手前に位置する。数年前までは、ここに山小屋を兼ねた神社が建っていたというが、何かの原因で焼失したそうだ。晴れていれば、秋田市内を一望できる絶好のビューポイントになるのだが、残念ながらこの日はガスがかかって靄っていたため、下界はよく見えなかった。それでも目を上に転じると、綺麗な青空が広がっていた。本当に抜けるような青空だ。昔の人が秋の空を「天高く」と評したのは、けだし名言である。ここでちょうど12時を迎えたので、家から持ってきたお握りを食べた。山で食べる食事は最高である。大量の汗をかいた疲れた身体に、ペットボトルの水が染みとおるように吸い込まれていく。晴れているとはいえ、時折吹く風は冷たく、汗で濡れた身体が急に冷えてくる。急いでタオルで身体の汗を拭った。
 見晴らしがよいせいか、ここで昼の休憩をとる人は多く、何人もの登山客が腰を下ろして休んでいた。中には腰の曲がった、かなり高齢のおばあさんもいる。話を聞くと毎週のように太平山に登っているのだという。「今日は天気がいいから中岳まで行くつもりだったが、帰りが暗くなるのは困るから」と言い残して、両手に杖を持って我々の目の前を颯爽と下山していった。その元気な様には舌を巻いてしまう。ちなみに中岳山頂までは、ここから50分ほどの道のり。前岳山頂はブナ林に視界が遮られ見通しが利かないが、中岳山頂は見晴らしもいいと言う。今日の我々の目標はここ前岳までだったので、昼食の休憩のあとは登ってきた道を下山したが、いつか機会があったら中岳まで登ってみようかと、先ほどまでの疲れも忘れて思った。「喉許過ぎれば熱さを忘れる」とは、まさにこのことだ。
 下りは、登って来たときとはうってかわってとても楽な道のりだった。周りの景色も良くみえる。登っているときは、足下ばかり見ていたせいだろうか、下りになると急に視界が広がる感じがした。始めは葉を落とした白い木肌のブナの林の中を縫うようにして降りて行ったが、次第に黄色やオレンジ、赤、茶色など綺麗に色づいた広葉樹の紅葉が、目の前に次から次へと展開するようになった。時折、目を下に向けると、シャクナゲのような青々とした艶のある肉厚の葉っぱが目に飛び込んでくる。イワウチワの小さな青い葉も見える。きっと花の咲く季節には美しい姿を見せてくれるのだろうと思うと嬉しくなった。
 オーパススキー場リフト降り場の中間地点付近で、先に下りていたおばあさんに追いついた。「ありゃ、もう追いつかれた。やっぱり若い男の人は違う」と感心された。しばし休憩を取りながら歓談したあと、最後の下りにつく。ここからの紅葉は上の方に比べると色が濃く鮮やかになる。目の覚めるような真っ赤なモミジが目立つようになってきた。その都度、足を止めてはカメラのシャッターを押す。そのため、同行者からは随分と置いていかれることになったが、下りは少し足を速めればすぐに追いつけるという安心感があるのであまり気にも留めなかった。あとで数えてみると写した写真は40枚以上になっていたが、使える写真は意外に少ないものである。
 紅葉の写真は難しい。見た目の色がそのまま再現されにくいのである。だから、写真を見てがっかりすることが多い。それだけ人間の目は優れているということなのだが。
 また、ピント(焦点)をどこに合わせるかによっても、まったく違った写真になってくる。花の場合は、中心の花にピントを合わせれば大体はうまくいくものなのだが、紅葉の場合はどこに焦点を合わせれば良いのだろうか。花の場合も、お花畑のように、群生している花の広がりを写真で表現するのは結構難しいものだが、紅葉はそれと似たところがあるのかもしれない。
 下りは、登りの半分くらいのペースで快調に下ってきたのだが、途中から左の腰から尻に掛けての部分が痛くなってきた。右肩も痛い。なぜだろう。右側に負荷のかかるような無理な歩き方でもしていたのだろうか。下に降りてから、森林学習館の温泉に入り、木こり庵で十割蕎麦を食べた。グランドゴルフの影響で温泉は超満員(と言っても、6人も入ればもう満員の小さな風呂なのだが)、蕎麦屋も店に入るのに順番待ちの状態だった。いつまでこの状態が続くことか。秋田の人間は、新しもの好きだが、飽きやすいという性格の人間が多いから。
 帰り際、森林学習館の坂道に小さく咲いていたトキワハゼの花が可憐で綺麗だった。今回は、O氏に案内されての太平山登山だったが、今度は花の咲く時期に再び来てみたい。(2003/11/03記)

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