奇形ブナ原生林の森(象潟町)

2002年8月29日(木)


 象潟町から矢島町に向かって鳥海山麓の山裾を縫うようにして走る山岳道路の途中にあるのが、中島台レクリエーションの森。ここには、奇形ブナの原生林の森と、鳥海山の豊富な伏流水に生える稀少品種の苔の群生地「獅子が鼻湿原」があって、ほぼ1時間半で一周できるようにトレッキングコースが整備されている。足元はぬかるみが多く、上り下りの激しい場所なので、それなりの覚悟が必要だ。8月も残すところあとわずかとなったこの日、残っていた夏休みを取って、妻と二人で出掛けてみた。

 幹が上がったところで子に分かれている形から「あがりこ大王」と呼び親しまれているこの木は、全国の巨樹・巨木の中から「森の巨人たち100選」にも選定された中島台レクリエーションの森の主ともいえる存在で、幹周りが7.62メートルと奇形ブナでは日本一の太さを誇る。


 中島台レクリエーションの森には、「あがりこ大王」のほかにも、奇形ブナの巨木が多数存在する。ここではかつてブナを切って炭焼きが行われていたのだが、その際根元から切らずに、幹や枝の途中から新芽が生えるように切っていたという。そのため、このような奇形のブナが多数生え揃う森となったのだそうだ。確かに、このブナ林の中には、レンガ積みの炭焼き場も残っていた。


 「あがりこ大王」がある奇形ブナの原生林を抜けると、鳥海山の豊富な伏流水が流れる獅子が鼻湿原に出る。ここには、稀少品種が多数確認されている苔の群生地があるが、それらは「鳥海マリモ」と呼ばれており、この湿原一帯は国の天然記念物に指定されている。水底に緑に見えるのが鳥海マリモだが、伏流水が豊富でしかも流れが速いため、撮影者泣かせである。


 それにしても、この伏流水の水量の豊富なこと。ブナ林は天然の貯水ダムだというのも、この水量を見ているとうなづける。この水が日本海に流れ、あの象潟の美味しい天然岩ガキを育てる命の水になっているというから、自然の循環システムの素晴らしさを感じる。


 ここの岩肌も苔に覆われ、その間を伏流水が無数の筋に別れ、そして集まり流れてくる。水の中に手を差し入れてみると、とても冷たい水であった。これで酒を造れば美味いだろうなと、思いはすぐにそちらにむかう。


 ここが、その伏流水が山の中から溢れ出てくる「出壺」と呼ばれる場所。数百年もの深い眠りから覚めてやっと地上に顔を出したこの水は、いつの時代に天から降ってきたものだろう。そのとき、日本は、秋田はどんな世の中だったんだろう。山中から溢れ出てくる水を眺めているだけで、そんなロマンを感じてしまう。
 中島台レクリエーションの森の奇形ブナの原生林、獅子が鼻湿原の鳥海山伏流水と鳥海マリモ。二つセットになった周遊コースは、写真を撮りながら、そして妻と話しながらゆっくりと歩いても2時間とはかからない。思いっきりグリーンシャワーのマイナスイオンを浴び、トレッキングするのは健康にもいいし、疲れた心も癒してくれる。自然が人間に与えてくれた最高の贈り物である。


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