赤田の大仏

2004年4月4日(日)

 4月に入って、初めての日曜日は、うららかな春の陽気に恵まれた。久しぶりに、妻と二人で春のドライブとしゃれ込んでみた。

 秋田から本荘方面に国道7号を向かい、本荘市松ヶ崎に差し掛かったところを左折し、岩城町亀田に向かう。TVドラマで放映された「砂の器」にも登場したあの亀田である。そして、羽越線の亀田駅を通りすぎ、さらに山の方に向かうと大内町との町境になっている「折渡峠」につく。ここは、「赤田の閑居さん」と周りの住民から慕われた是山禅師が地蔵尊を彫ったとされる場所だが、今では千体ものお地蔵様が山頂まで延々と並べられている。そのお地蔵様の周りを、一体一体掃き清めている老婦人がいた。ここは、今なお信仰深い場所なのである。
 また、この山には、かつて庄内藩士に追われた岩屋氏配下の兵士が身を隠したという言い伝えがある「千人隠れ」という洞窟もあったが、とても千人の兵士が隠れられる大きさとは思えない。おそらく「千人」とは「大勢」ということを表す修飾語として用いられたものなのだろう。

 折渡峠の千体地蔵の次に向かったのが、是山禅師が開山したという本荘市赤田にある長谷寺(ちょうこくじ)である。ここは通称「赤田の大仏」という名で親しまれている、十一面観世音菩薩が御本尊として祀られているところである。
 境内の一角に、高さ21メートルにもなるという、屋根が二重構造になっている立派な建物があった。ここが観音像が納められている大仏殿(観音堂)である。大仏殿前の紅梅も大分赤みを増してきて、今にも花を開かせようとしているところだった。

 大仏殿の前で靴を脱ぎ、階段を登って重い木の扉を開けると、いきなり黄金に輝いた巨大な十一面観世音菩薩像が目の前に飛び込んできた。
 身の丈約7.9メートル、台座も含めると10メートルにもなるという観音像。これが通称「赤田の大仏」と称されている観音様だ。一般的に大仏というと、奈良東大寺や鎌倉高徳院の大仏のような盧遮那仏を思い浮かべるが、ここ赤田の大仏は観世音菩薩である。観音様もこれだけ大きくなると「大仏」と呼びたくなるのもわかるような気がする。
 見上げると、観音様のギョロリとした目に、思わず見すくめられるような威圧感を感じてしまった。しかし、観音様といえば、衆生の声を聞き、その求めに応じて救いの手をさしのべる慈悲深い菩薩様である。大仏殿のなかには、妻と私の二人だけしかいない。なんという贅沢。思いっきり、観音様の慈悲を身体一杯に感じながら、大仏殿を後にした。

 黄金に光り輝く観音様の荘厳さもすごいが、その住まいである大仏殿に施された屋根組みや柱・軒などの彫刻もまた見事なものだった。これだけとっても十分に美術作品としての鑑賞に値する。観音像といい、大仏殿の見事な彫刻といい、「鄙には稀な」という言葉が実にしっくりとくる。本当に素晴らしい。ここが無料で自由に拝観できるというのだから、これもまたすごい。

 大仏殿の脇には変わった木があった。良く見ると、杉の木と別の広葉樹が根本部分で絡みあって、まるで1本の木のように一体化して見えるのである。広葉樹の方は、赤い蕾が今にも開きそうにして沢山ふくらんでいた。この花が一斉に咲いたら、さぞかし見事だろうと思う。そして、杉と一体化した不思議さも、より一層際立つに違いない。この花の咲く時期にもう一度訪れたいものだと思った。

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