猛烈に忙しかった2月の休日出勤の代休を,飛び石連休のはざまの3月19日にとって4連休とした。4連休とはいっても,子供たちは学校,妻は仕事と,暇にしているのは僕だけで,どこに出掛けるでもなく家でブラブラしていたのだが,平日となる19日は一人でドライブに出掛けることにした。
車を買い換えてからドライブに出掛けるのが楽しくてしょうがない。こんな経験は,初めて車を買い求めたとき以来だ。これまでは,車の運転というと,単に移動するための手段にすぎなくて,どちらかといえば労働だった。だから,出来ることなら運転するのではなく,同乗者として乗せてもらうというのが,僕にとっては望ましいスタイルだった。それが今は,運転がドライブというレジャーに変わってしまった。車が変わると,ライフスタイルも大きく変えてしまうものなのだ。
さて,今日は暖かかったので,春を追い求めて秋田県でもっとも春が早く来る象潟町に出掛けた。日本海を右手に眺めながら,国道7号線をひたすら南下する。秋田市から1時間半ほど行くと,山形県との県境の町,象潟町だ。
始めに訪れたのは金峰神社。景勝地「奈曽の白滝」の真上に位置するこの神社は,山岳信仰と神仏習合信仰が合体したものである。一説によると,慈覚大師円仁が,鳥海大権現・蔵王大権現を勧請して悪鬼退散の護摩密法を修行し,鳥海山の手長・足長を退治し,鳥海山護持の祈祷殿として開基したとも伝えられている。1869年神仏を分離して,蔵王権現を金峰神社と改称した。雪に埋もれた本堂は菰に覆われていて,訪れる人もなくひっそりと静まりかえっていた。今かいまかと春の訪れを待っているようだ。この真正面に奈曽の白滝が見える。
金峰神社の杉木立の間の石段を降りて奈曽川の淵に出ると,国名勝に指定されている奈曽の白滝が眼の前に現れる。鳥海山頂に源を発する奈曽川が奈曽渓谷を経て,日本海に注ぐ1歩手前に,この白滝がある。
輝石安山岩の溶岩流の末端の絶壁にできたもので,瀑布は高さ26m,幅11m。雄大で優雅な姿は,いつ見ても美しい。すぐ写真を撮ろうと思ったが,雪が残る急な石段を降りてきたためか,足がガクガクする。震えが止まるのを待つことしばし。早春の冷気が疲れた体に心地よい。
さらに国道7号線を南下すると,秋田県と山形県との県境に三崎公園がある。
ここは,国境の三崎山旧街道が史跡公園として整備されたもので,最近は,日本海に沈む夕陽を眺める絶景ポイントとして知られるようになってきた。
この三崎旧街道は,日本海に沿う街道として,早い時期から開けていたそうだ。三崎山を含めてこの辺一帯は,そそりたつ奇岩・怪石が多い。これは,鳥海山噴火の際の溶岩流の崖が,海の侵食を受けてできたもので,その険しさから街道第一の難所だったという。その難所ぶりは,菅江真澄や古川古松軒が文献に書き残している。
また,戊辰戦争の際には,この地で庄内軍と佐竹・生駒軍が激戦を交え,多くの戦死者を出した。灯台の近くに,戊辰戦争の戦死者の慰霊碑が建っている。
落ち葉が敷き詰められた旧街道を歩いてみたが,急坂の連続で,すぐに息がきれ,足がパンパンに張ってしまう。今は車でほんの数十秒で通り過ぎてしまう,この峠だが,実際に歩いてみると,往時の難所ぶりが偲ばれる。
また,この辺一帯はタブの原生林となっていて,鬱蒼と生い茂ったタブの林を縫うように,旧街道が通っている。北東北一帯に群生するタブの木だが,このようにまとまって生えているのはめずらしいものだそうだ。そういえば象潟の町中にある古刹,蚶満寺にもタブの老木があった。
旧街道を歩いていたら,早春の木洩れ日を受け,少し汗ばんできた。
疲れた体を癒すのは温泉が一番。というわけで,象潟の道の駅「ねむの丘」で休むことにした。まずは腹ごしらえ。昼食はレストランお薦めの海鮮丼にした。海の幸がてんこもりのちらし寿司で1300円。ちょっと得した気分である。次いで,展望温泉に浸かる。海辺の温泉らしくナトリウム泉で,肌がつるつるしてくる。今日は,随分と昇り降りの運動が多かったので,疲れがもろに足にきている。温泉で全身を弛緩させる心地よさは何事にも変えがたい。目の前には広々とした日本海が広がり,水平線が遠くに見える。平日に休みをとって,こうしてのんびりできるとは,なんて贅沢なんだろうと思う。この道の駅では,フライトシミュレーションという,バーチャル航空体験も行っていた。ちょっと心惹かれたが,一人でやるのは憚られた。今度は家族で来ようと思う。