NO13 ミュージカル・アテルイ  2001年11月11日(日)

わらび劇場 不覚にも私は「アテルイ」という名を知らなかった。
 今年5月,田沢湖芸術村で北東北3県の行政担当者の集まりがあったが,その場で今年の8月から「アテルイ」を上演するという話を聞いた。そのとき私は「アテルイ」とは変わった名前だな。何を意味する言葉だろうという感覚だった。すぐに,それは歴史上の人物で,奈良末期から平安初期に掛けて東北の地で大和朝廷と戦った蝦夷の頭領であり,その「アテルイ」を主人公とした高橋克彦の小説「火怨」をミュージカル化したものだということを知らされた。同じ東北人として「アテルイ」を知らなかった私の知識の無さには,ただただ恥じ入るばかりだが,同じような人間は結構多いのではないだろうか。アテルイと戦った征夷大将軍,坂上田村麻呂を知らぬものはほとんど居ないのに,アテルイはまるで歴史に埋没してしまったかのようだ。早速,図書館から「火怨」を借りて読んでみた。20年以上にも及ぶ大和朝廷と蝦夷たちの戦いは,三国志を読むような一大スペクタクルで,悲壮感というよりは痛快な感覚を味わった。そして蝦夷たちの「俺達はヤマトと同じ人間なんだ」という悲痛な叫びに涙した。これは,絶対にミュージカルを見なければと,思いは膨らむばかりだった。
 ミュージカル・アテルイは,原作と違い,アテルイと坂上田村麻呂が一人の女性を巡って恋敵となるという設定をとっていて,ミュージカル劇の盛り上がりに彩りを添えている。また,わらび座独特の和太鼓の連打による大迫力,役者一人一人の声量のすばらしさ,久しぶりにミュージカルを堪能した。クライマックスの処刑の場面や,佳奈がアテルイの子を連れて墓を訪れる場面では,思わず目に涙した。元来,涙腺が弱い質なのである。欲を言えば,タキナ役の丸山有子さんの歌声をもっと聞きたかった。彼女は,5月に我々の宴会の場でアテルイの劇中歌を披露してくれたのだった。それ以来のファンである。また,劇を見ていてふと気が付いたのだが,仙北町にある払田の柵が出来た時期が,ちょうどアテルイと坂上田村麻呂が激戦を繰り広げていた時期と重なるのである。払田の柵については,歴史書にその存在が触れられていないため,未だ謎に包まれる遺跡なのだが,この征夷戦争と無関係であるはずがないと思った。
 アテルイ公演は正月まで行われ,来年4月から再開し8月まで行われるという。今度は両親を連れて行こうと思う。

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