NO2 Dr.キリコの贈り物 1999年5月30日(日)


 昨年12月,東京都内の女性が,インターネットを通じて青酸カリを購入し,自殺を図るという事件が起こった。新聞や週刊誌,テレビなどで繰り返し報道されたので,ご存知の方も多いだろう。青酸カリを贈った本人も青酸カリで服毒自殺したので,真相はあいまいだったのだが,この度,この事件を取り扱った「Dr.キリコの贈り物」(矢幡洋,河出書房新社)が出版された。

 この本の帯記事には次のように紹介されている。
「この奇怪な事件の背後には何があったのか?
 1998年12月,東京都杉並区に住む女性が,宅配された6錠の青酸カリ入りカプセルを飲んで自死した。カプセルを送った男も,時をおかず同じ方法で命を断つ。男の名は,草壁竜次。インターネットの自殺系ホームページ「ドクター・キリコの診察室」の“専属医師”であった。
 心を病み,死へのすさまじいまでの衝動に襲われる自殺願望者たちの姿とは?自らも自殺未遂を経験し彼らに生きてもらいたい一心で,青酸カリを贈っていたDr.キリコのパーソナリティとは?「青酸カリは,自死しないためのお守りになる」・・・・キリコをそう確信させたものとは?なぜキリコはインターネットで“治療者”的行動をとり,ついには自死したのか?」

 この本を読むまで,「ドクター・キリコの診察室」は草壁が自分で作ったホームページだと思っていた。実は別に管理人が居て,その人のアイデアで運営されていたホームページだったのだ。また,その管理人は自殺願望者であり,青酸カリ入りカプセルを草壁に3万円で送ってもらっていた。そして,そのカプセルを持つことで,いつでも死ねると思ったら,寸前に自殺を思い止まることが出来たという。草壁は,鬱病の薬として青酸カリ入りカプセルが絶大の効果をもつと,自らの経験から確信するにいたっており,複数の鬱病の人間に治療薬として送っていたらしい。そのようなことが本を読むにつれわかってきた。

 本は,ホームページの管理人こと,木島彩子の話を中心に展開する。自殺願望者の死への衝動のすさまじさに唖然としてしまうが,やはり,草壁の行為には一人よがりの独善性とむなしさを感じてしまった。  

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