白川博士の講演会  2004年6月5日(土)

 秋田県立大学が開学以来取り組んできた学生自主研究制度が、昨年度、文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」に高い競争率のなか採択された。これを記念して、このたびノーベル化学賞受賞者の白川英樹博士を招いての特別講演会が秋田市文化会館で開催された。秋田に居ながらにしてノーベル賞受賞者の話を聞く機会はめったにないことなので、高校生を始め多くの市民が駆けつけて熱心に先生の話に聴き入っていた。
 白川博士は、プラスチックは電気を通さないという従来の常識をくつがえし、電気を通すプラスチック(導電性ポリマー)の発見・開発に成功し、その功績が評価され、2000年にノーベル化学賞を受賞された。先生の話のキーポイントとなったのが「セレンディピティー」という言葉であった。この年、ノーベル化学賞を受賞したのは、導電性高分子物質の発見に貢献された3人の科学者だったが、授賞式のとき「セレンディップの3人の王子たち」と紹介されたそうだ。セレンディップとは現在のスリランカのことで、そこに住む3人の王子たちは、偶然と賢明さによって思いもかけぬことを次々と発見していったというイギリスのおとぎ話から「セレンディピティ−」という言葉が生まれたという。要するにセレンディピティ−とは、「目指していた目的とは違うが、偶然によって思いもよらぬ発見・発明をする能力」という意味に使われている。白川先生の発見も、実験に使う触媒を、通常の1000倍の濃度のものを間違って使ってしまったという失敗が契機になって生み出されたものだそうだ。しかし、その失敗によって生み出された偶然を新発見に結びつけていったのは紛れもなく白川先生のセレンディピティによるものだ。偶然というのは誰にも舞い降りてくるものではなく、常に知性を磨き、何かを追い求めているものにしか与えられない。そういう意味において能力なのだ。ノーベル賞受賞者からは、偶然だとか失敗ということが新発見のきっかけになったという話をよく聞く。セレンディピティとは、ノーベル賞を受賞する人には欠かせない能力の一つなのかもしれない。新発見に至った高分子物質の話は、化学式が苦手な私には少々難しかったが、この成果がタッチ式パネルの実用化に結びついたり、今後様々な分野で応用化され、我々の日常生活に入り込んでくるという話には大いに興味が持てた。
 白川先生の講演が終わってから、県立大学学生の自主研究グループから4課題が選ばれて発表があった。1・2年生の自主研究ということもあってまだまだ未成熟な部分も多かったが、いずれも興味深い話であり、低学年から自主的に研究を進めていくというスタイルは大いに評価できる。この中から、第二の白川博士が生まれるのを期待したい。 

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