秋田ふるさとづくり研究所第1回セミナー講義録

過疎地域のゆたかさ指標

 日時:平成11年2月19日(金)午後6時30分
 場所:秋田ふるさと塾事務所
 講師:秋田県総合政策課 木村雅彦

 県の総合政策課の木村と申します。今日は,私から「過疎地域のゆたかさ指標」と題して研究成果を発表させていただくことになっているのですが,このようにズラリと大学の先生たちが目の前に並んでいると妙に緊張してしまいます。
 この,「過疎地域のゆたかさ指標」という研究テーマは,私が自治大に行っていたときに,政策課題研究というのがありまして,他県の数人の仲間とグループを組んで半年間にわたって自主研究をするというものなんですが,その時に選んだテーマで,一種の卒業論文のようなものです。自治大というのは,都道府県や市町村などの地方行政に携わっている職員が研修する場所なんですが,私が行っていたのは半年間という最も長期にわたるものでした。

 前置きはこの程度にしまして,それでは,研究内容についてお話しします。
 今,地方自治体職員に求められているのは,政策形成能力だとよく言われます。これは,地方分権推進という世の中の流れに沿うもので,これまでのように国が政策を考え,地方はそれに従って全国一律の政策を推進するという時代ではなくなっているということを意味しています。つまり,地方行政に携わる職員自らが,住民のニーズに基づいた独自の政策を考え,創り出していかなければならない時代に変化しているということなのです。
 私たちは,そのための「政策形成ツール」として,「地域の生活実感を反映したゆたかさ」の体系化と指標化を定量的分析の手法を用いて試みることにしました。対象地域として過疎地域を選んだのは,過疎地域が地域の担い手である若者の流出や高齢化の進行などにより地域の活力の低下に悩んでいるという現状があるからです。ただし,この手法は過疎地域の政策に限ったものでないことは,あらかじめお断りしておきます。
 過疎地域においても,価値観の多様化が着実に進んでいます。これは,ある程度ナショナルミニマムが達成されつつあることの証左でもあるのですが,これからは従来型の道路や橋などハード面の整備から,住民の生活満足度や,ゆたかな自然環境の維持保全などに重点を置くなど,行政が行う政策も質的な変化を余儀なくされます。こうした中で,相対的に良い分野をさらに伸ばし,各地域独自の特色に富んだ「ゆたかさ」を発見していくことが,より重要になっていくものと思われます。

 過疎地域は,高度成長期に深刻な人口減少に悩まされた地域ですが,昭和45年以降,これまで数次にわたって手厚い対策が施されてきました。特に,過疎債の発行により,様々なハード面の整備を行ってきた結果,道路整備の面などでは都会と変わらない生活が送れるようになってきています。ただし,現在もなお人口減少が続いており,その市町村数も増えています。

 個人の生活全般にわたる様々な側面のゆたかさを総合的に測定するために,政策目標の体系図を作成して,指標化したものを一般的に社会指標と呼んでいます。社会指標の代表的なものとして,経済企画庁が毎年発表している新国民生活指標(People's Life Indicators)というものがあります。いわゆるPLIというやつですね。毎年発表されるたびにランキングの下位にあたる埼玉県の知事なんかが,指標の取り方がおかしいと批判してますので,そういう面で有名になっています。これなどを見ていると,万人に共通した指標を作るのは難しいとつくづく思ってしまいますが,私なんか,PLIはなかなか優れものだと思っています。
 PLIについて,若干説明しますと,個人の生活の活動に着目して,[住む」,「費やす」,「働く」,「育てる」,「癒す」,「遊ぶ」,「学ぶ」,「交わる」の8つの生活領域を設定してゆたかさを測っています。そしてそれぞれの生活領域ごとに平均で17種類の指標を用いて指標値を算出しています。
 PLIは,客観的データによる総合評価であることや,政策の達成状態が明確になり,政策の目標が立てやすくなるといった利点がある一方で,そこに採用される指標に住民の生活実感が反映されていないこと,どの指標をどのようにウェイト付けするかで,結果が全く違うものになってしまうこと,などが問題点として指摘されています。
 そこで,私たちは,「生活実感との乖離」をできるだけ少なくするため,過疎地域に住む人たちに「ゆたかさ」に関するアンケートを行い,それに基づいて実際に過疎地域に住む人たちの生活実感に根ざした「ゆたかさ」の体系化と指標化を試みることにしました。

 私たちが実際に行った作業を順を追って説明します。
 私たちが最初に行ったのが,我々班員が過疎地域をどのように感じているかをあらかじめ体系化するということでした。これは,あとで住民アンケートに基づいて行う体系化と,どのような差異が見られるのか検証するためです。6人のメンバーがそれぞれ自分の過疎地域に対するイメージを5〜6項目ずつ持ちよって体系化したのが,次のようなものでした。
  「自然,食,くらし,学,住,文化,安心,人,交通,ゆとり」
全部で10項目と多くなってしまいましたが,無理に集約せずに班員全員の考えを反映したものにしました。

 次に,アンケート調査を実施しました。調査対象者は全国20市町村から101人を地域,年代,男女の偏りがないように注意して選定しました。アンケートは,回答者に予見を与えないようにとの配慮からと,私たちの思いもよらない回答が得られる可能性があるのではないかということなどから,自由記述方式としました。アンケート様式は報告書の巻末に示してありますので参考にしてください。
 アンケートの回答内容について,簡単に紹介しますと,自然環境に関する項目が多かったようです。例えば,自然が豊かである,自然美に恵まれている,水や空気がきれい,星空がきれいなどの回答が多くみられ,やはり過疎地域に住む人たちは自然に恵まれていることに対して多くの人が誇りに思っているようです。さらに,海の幸や山の幸が豊富である,新鮮な野菜・果物・魚が食べられるなどの自然の食材に関するものも多く見られました。
 また,人情味がある,隣近所の絆が強く助け合いの精神が強い,地域の連帯感があるなどの人との触れ合いに関する項目も多く見られました。地域行事が盛ん,伝統文化・伝承芸能が引き継がれているなどの地域文化に関する項目も見られました。過疎地域の住む人たちの人間関係のゆたかさが表れています。
 続いて,住環境,教育環境,余暇環境に関するゆとりに関連する項目も多く見られました。また,交通が便利,道路整備が行き届いている,交通渋滞がないなど,交通に関係するものもありました。
 こうして見てみると,総じて過疎地域の人たちは自分たちの暮らしを豊かに感じているようです。

 続いて,アンケート調査から得られた結果を年齢別に39歳以下の若年層と40歳以上の老壮年層の2区分に分類して体系化の作業を行いました。体系化の作業を示すと次のとおりになります。

 第1ステップ アンケート調査項目のカード化
 第2ステップ 「過疎地域のゆたかさ」項目の整理,分類
 第3ステップ 行政施策の検討と体系化
 第4ステップ 政策体系図の評価と検討
 第5ステップ 効果の計測を可能にするアウトプット指標の定義
 第6ステップ 指標値の計測

 第3ステップまでの作業の結果,政策体系図に年齢の違いは多くは出ませんでした。これは,生まれ育った時代による環境変化よりも,現在の生活条件が同質であることの影響がより大きいことを表しているものと考えられます。そこで,年齢による政策体系図を統合したものが次のようになりました。これを,私たちは,過疎地域の「ゆたかさ体系」と名づけました。

大項目 中項目 小項目
1 めぐみ 11 自然保護 乱開発防止,野生動物保護,景観保全,自然美保護
12 環境保全 水源涵養,森林育成,大気汚染防止,水質汚染防止,騒音対策
13 産業振興 地場産業振興,特産品振興,有機農業
2 ふれあい 21 住民交流 コミュニティ活動,コミュニティセンター,自治会組織,コミュニテキ作り,地域住民の交流,公民館活動,地域の協力体制,町内会,相互扶助,老人とのふれあい,イベント,スポーツ
22 文化の振興 伝統文化保存,伝統行事継承,伝統工芸継承,歴史遺産,まつり,コミュニティ文化
23 観光の振興 観光振興,温泉
24 高齢者のいきがい 高齢者の活躍の場,いきがいづくり
3 ゆとり 31 住環境 住宅整備,宅地造成,生活環境
32 教育環境 遊び場確保,ゆとりの教育,地域の教育力
33 余暇対策 余暇施設,保養施設,温泉,公共施設整備,スポーツ施設,アウトドア,生涯学習
34 のんびり ゆとりの時間
4 安心 41 防災防犯 交通安全,治安が良い,災害がない,消防体制
42 保健医療 医療施設,保健体制
43 福祉 福祉の充実,福祉施設,高齢者施設
5 便利 51 交通・通信 道路整備,交通アクセス,情報網の整備
52 商業振興 商業振興

 こうして,過疎地域の「ゆたかさ体系」を作成しましたが,先に,班員のイメージだけで体系化した過疎地域のゆたかさと比較すると,大きな違いはなかったものの,班員の体系図から抜け落ちていたものが3つありました。それは,「観光の振興」,「高齢者のいきがい」,「余暇施設(対策)」の3つでした。過疎地域では,観光やレジャー,温泉など施設面の整備が我々の予想以上に進んでいることがうかがわれます。また,高齢化が進んでいる過疎地域では,高齢者の豊富な知識や経験を活かせるようなシステムがすでにできていることがうかがえます。

 次に実際の市町村施策と過疎地域の「ゆたかさ体系」の比較を試みることにしました。市町村施策については,アンケート調査を実施した市町村から広報資料等により当初予算編成時の首長の施政方針を取り寄せました。そして,施政方針に項目として挙げられている重要施策が,果たして実際の住民のアンケートから得られた「ゆたかさ体系」と合致するかどうかを検証したのです。
 その結果,合致したものもあれば,そうでないのもあるということがわかりました。
 合致率が高い政策は,「産業振興」「住民交流」「観光振興」「教育環境」「住環境」「余暇対策」「保健医療」「福祉」「交通・通信」に関するもので,いずれも70%以上の市町村で重要施策として取り上げられていました。
 一方で,合致率が低い政策は,「自然保護」「文化の振興」「高齢者のいきがい」「のんびり」に関する項目で,半分以下の市町村しか重要施策に取り上げていません。特に「のんびり」に関しては,重要施策に取り上げている市町村は一つもありませんでした。
 次に,政策効果の計測を可能にするアウトプット指標の選定にとりかかりましたが,市町村別の統計データが極めて少ないという現状にぶつかってしまい,かなり苦労しました。最低でも中項目に一つの指標を定義づけていきましたが,これに関してはもう少し統計データの充足を待たないと,満足できる成果は得られないと思います。とりあえず,次のようにアウトプット指標を定義しました。

大項目 中項目 アウトプット指標
1 めぐみ 11 自然保護 (総面積−可住地面積)/総面積
12 環境保全 無し
13 産業振興 1次産業純生産額/1次産業就業者数
2 ふれあい 21 住民交流 公民館数(千人当たり)
22 文化の振興 文化財指定件数(千人当たり)
23 観光の振興 無し
24 高齢者のいきがい 老人クラブ加入者数/65歳以上人口
3 ゆとり 31 住環境 1住宅当たり住宅床面積
32 教育環境 児童生徒数/教員数(小中学校)
33 余暇対策 生涯学習講座受講者数/20歳以上人口
34 のんびり 無し
4 安心 41 防災防犯 刑法犯認知件数(千人当たり)
42 保健医療 一般病院診療所数(千人当たり)
43 福祉 老人家庭奉仕員数(千人当たり)
5 便利 51 交通・通信 道路改良率
52 商業振興 小売業年間販売額(千人当たり)

 続いて,それぞれの指標の達成度を測定するためには,指標ごとに評価尺度を作成する必要があります。ここでは,偏差値を用いることとしました。また,偏差値をそのまま使用するのではなく,5段階のランクデータに変換しました。
 ゆたかさ体系は5個の政策分野(大項目)と16個の政策項目(中項目)で構成されています。今回は大項目で評価を行ったため,指標値を統合する必要がありましたが,その際の各指標のウェイト付けは,アンケート調査項目の出現頻度によりました。
 このようにして,評価を作成し具体の市町村に当てはめ,レーダーチャートのグラフ化を行ったのが,報告書のグラフです。

  最後に,今回の研究成果のまとめとして,2つの政策提言をしたいと思います。
 提言の1番目は,過疎地域の「ゆたかさ体系」の作成と指標化による総合政策の必要性ということであります。
 過疎地域に住む人が肌で感じる「ゆたかさ」に基づいた政策体系化については,総合的な視点に立つことが必要です。そのためには,「ゆたかさ体系」を作成した段階で,政策立案者の主観的な「ゆたかさ」イメージと比較し,続いて従来の施策との比較検討を行うことが有効だと思われます。さらに,地域間や時系列的に評価比較が必要な場合は,政策効果の具体的なアウトプット指標を確定させて,レーダーチャートによる現状の把握と分析が有効になってきます。この場合,前提として統計データの充実を図ることが重要なポイントとなります。

 それでは,なぜこの提言が有効なのかについて説明します。
 1つには,この体系化が過疎地域に住む人達の生活実感からくる「ゆたかさ」に基づいて体系化されたものであり,住民の側に立った「生活者優先」の実現を求めるという行政の原点に立ち返った提案であるということです。
 2つには,「ゆたかさ体系」の政策効果の評価を通じて,自治体として今後何をやらなければならないかが,行政の側でも住民の側でも具体的に分かるということです。つまり,「ゆたかさ体系」が地域住民とのコミュニケーションツールの役割を果たしてくれるのです。この前提としては,住民の意見を反映するための情報公開の制度化が確保されている必要がありますし,さらに,住民参加の機会を設けることによって,行政の側にも創意工夫を促すきっかけにもなります。
 また,「めぐみ」「ふれあい」「ゆとり」「安心」「便利」といった政策分野とその充足などについての指標が作成されますと,その資料をもとに,次の段階ではどのような水準を目標にすればよいかの目標が簡単に設定することができます。今までの行政サービスは,数量的指標や目標が示されている分野への予算配分が過大となり,数量的指標が特に目標として示されてこなかった分野は軽視されてきました。その結果,環境アメニティやふれあい,人情などといった心の問題への予算配分と政策努力については,公共工事など数値化されやすい施策に比べて軽視されるきらいにありました。過疎地域の「ゆたかさ」を実感できる地域社会とするためにも,政策体系図とその指標を活用することによって,個別の政策における不備を知り,改善を図るヒントを与えられるものと思います。特に地方分権の時代を迎え,縦割り的政策形成から総合的観点に立った政策形成が求められていることを考えれば,この提言の有効性は自ずから明らかになってくるものと思われます。

 提言の2番目は,「「ゆたかさ体系」との比較検討による過疎地域の取り組むべき政策の方向性」ということであります。
 我々が取り組んできた「ゆたかさ体系」や,その指標化を通じて重要と思われるものがいくつかありましたので,過疎地域が今後取り組むべき政策の方向性として,次の4点を提言します。

 第1が,「ゆたかな自然」を積極的に評価した自然保護政策を行ってもらいたいということです。
 過疎地域は,これまで開発の波から取り残されていた地域です。その結果,幸いにも多くの自然が残されている訳ですが,過疎地域の政策担当者はその優位性を十分に認識する必要があります。ところが,実際の過疎地域の政策をみてみると,自然保護のウェイトはあまり高くないようです。過疎地域に住む人たちへのアンケート調査では,豊かであると感じる項目で,最も多かったのが「自然」に関する項目でした。自然は,一度失ってしまうと回復するのは容易ではないですから,そのことを十分意識しながら,政策に取り組む必要があるといえます。
 また,過疎地域の多くは,都市の上流域として水資源を涵養・供給したり,豊かな野生生物などの生態系維持して,国土保全に寄与しています。その力を維持するためには,過疎地域の取組だけでは限界があります。その恩恵を受けている都市側の負担も必要です。「自然のゆたかさ」が環境や景観の問題だけでなく,都市住民の生活を支えていることにもっと目を向けなければならないと思います。

 第2が,「高齢者のいきがい」対策の充実を図ってもらいたいということです。
 今後,高齢化・長寿化社会を迎える中で,健康で活動的な高齢者の社会参加がみられ,地域社会においても,高齢者の役割に期待する度合いが大きくなってくるものと考えられます。特に,過疎地域は,全国平均よりかなり速いスピードで高齢化社会へと進行しており,高齢化社会が切実な問題となっています。このような状況の中で,高齢者は生きる達人たちであり,彼らの知識や能力を活用して,地域社会の担い手として一定の役割を果たせるようにすることも大切なことあると考えられます。高齢者対策というと,どうしても福祉に目がいきがちですが,これからは,高齢者のいきがい対策も重要な政策になってくるものと思われます。
 我々が行った調査でも,「高齢者のいきがい」があることが過疎地域のゆたかさであると,特に高齢者層の住民から回答があったことをもっと考えてもらいたいと思います。

 第3が,広域的な視点にたった政策の取組が必要になってくるということです。
 これからの,政策形成に「連携」という視点は欠かせません。過疎対策も同様で,これまでのように市町村単独で政策を考えるのではなく,中核となる地方の中小都市と,周辺の中山間地域が連携して地域づくりを進めていくことが,これからの課題になってくると思われます。
 今後,地方分権の推進に伴い,福祉や保健衛生業務など住民に身近な行政が市町村に権限移譲されてくることが予想される中で,高齢化の進展が著しい市町村にとって,広域的な地域連携の要請が高まってきています。広域行政の制度としては,一部事務組合,広域連合,合併などがありますが,勧告権付与による広域的な調整機能を持ち,国,県からの権限移譲も可能であり,また市町村の形態も維持できることから抵抗感の少ない広域連合制度の活用を積極的に図るべきであると考えます。そして,県の広域行政への関与としては,たんに指導,助言にとどまるのではなく,過疎市町村との人事交流の促進,そして広域連合への参加などを通じた積極的な取組を行う必要があります。

 第4が,「のんびり」政策の推進であります。
 今回の政策体系で特徴的な項目が「のんびり」という項目でした。当然ながら,「のんびり」を政策の柱としている市町村はありませんでした。「のんびり」とは,時間的,空間的環境から得られる心のゆとりというように定義づけられると思うのですが,たとえ自由時間が多くても,気持ちがあくせくし,精神的にゆとりが感じられなければ「のんびり」とは言えません。このように「のんびり」は多分に精神的な心の持ちようであるため,なかなか政策展開するのが難しいということが言えます。「のんびり」に関連する政策といえば,例えば自由時間の活動を支援する「余暇対策」や「観光振興」などがあるでしょうが,これまでの「余暇対策」や「観光振興」にのんびりの視点は無かったように思われます。
 過疎地域の住民がゆたかであると感じている「のんびり」を何とか政策に生かせないものでしょうか。例えば,過疎地域の多くの市町村で取り組まれている都市住民との交流事業は,「のんびり」の視点で事業展開を進め,都市住民に田舎の「のんびり」を満喫してもらえるような事業(例えば,長期滞在型の宿泊施設や農林業を生かした体験学習など)を進めるというのも有効かもしれません。また,労働政策でも長期休暇が取りやすい環境整備が必要になってきます。
 「のんびり」は,それ単独で政策展開するのは難しいですが,様々な施策に「のんびり」の視点を取りいれることは可能です。過疎地域は「のんびり」を実感できる先進地域であることを政策に積極的に生かしてもらいたいと思います。

 以上で,私からの研究発表を終了しますが,何といっても,市町村別の統計データの不足が今回の大きな制約になりました。今後の,統計データの充足が待たれます。また,統計データの不足を補う方法として,住民満足度をアンケートなどによって計測するアウトカム指標の活用も考えられます。いずれにしても,今回の研究は,政策形成の手法の提供が一つの成果であると考えていますので,今後,我々の研究をもとに,精度の高い指標の作成がなされることを望んで,私からの発表とさせていただきます。