三十三間堂

(平成15年2月6日)


 京都には何度も訪れたことがあるのに、なぜか千体の千手観音仏で有名な東山七条にある三十三間堂には一度も行ったことがなかった。千体の千手観音が立並ぶ姿は、写真を見るだけでもそのすごさに圧倒されるほどで、いつか是非行ってみたい場所だったが、今回の大津出張の機会に立ち寄ってみることにした。
 三十三間堂は正式には蓮華王院本堂という名で妙法院の管理下にある天台寺院である。三十三間堂の名の由来は南北に延びる内陣の柱の間数が三十三あることに由来する。


三十三間堂(蓮華王院本堂)

 この日の京都はとても寒かった。あとで聞くと朝に雪もちらついたそうだ。境内の中に入ると右手から「入口はこちらです」との案内の声がした。早速入口で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて中に入る。入るとすぐにストーブが置いてあり、千体観音の拝観をおえた人たちが暖をとっていた。


 一歩お堂の中に足を踏み入れると、千一体(一体の千手観音坐像とその両側に五百体ずつ立並ぶ千手観音立像)の観音様がいきなり目の前に飛び込んでくる。いや、これは表現が適切ではない。正確にいえば、どこまで続いているのか先がまったくわからない数限りない仏像が、わーっという感じでいきなり目の前に飛び込んでくるのである。これは唖然というのを通り越して、驚愕としか言いようがない一瞬である。頭の中ではわかっていても、いざ実際に目にするとその感覚がまるで違う。ものすごい畏怖感である。
 少し落ち着いてから、一つ一つの仏像を目を凝らしながら眺めていく。金色にキラキラと輝く千体の観音像もいいが、それを守るように最前列に置かれている二十八部衆や両脇に置かれる雷神、風神が、またそれぞれ違った姿、形をしていて見るものをあきさせない。二十八部衆はインドの神々を表したものだそうだが、そのすべてがあまりに奔放で、個性的な魅力あふれる仏像である。
 しばらく歩いていくと、やっと中央に位置する大きな千手観音坐像(湛慶作)の前にたどりつく。ここまできてやっと三十三間堂の全体像が把握できてほっとする。しかし、なんという威圧感。なんという迫力。これほどまで圧倒的な迫力をもった仏像の群衆に出会うというのは、ここでしか体験できないのではないか。
 そうこうしているうちに、閉館の案内アナウンスが流れた。一見同じように見える千体仏だが、作られた時代や作者によって顔形が微妙に違うという。三十三間堂に詣でたら、千体仏のなかにいとしい故人の面影を見出すという伝承もあるというが、そんな暇もなく駆け足での拝観となってしまった。


三十三間堂全景

 三十三間堂の建物は、中に千一体の千手観音と雷神・風神、二十八部衆合わせて三十体の仏像を納めているだけあって実に長大である。高さは大棟まで15m、東西22m弱、南北125m強というからすごい。建物の中で100メートル競争ができてしまうのである。どこからみても手前から遠のくにつれ小さくなっていき、見事なまでの遠近法の描写が得られる。どこまでも続く長い屋根瓦もまた美しい。三十三間堂は仏の素晴らしさが強調されるが、建物もまた美しいのである。


京都国立博物館

 三十三間堂の向かいにあるのが、京都国立博物館。こちらは、本格的なルネサンス式の西洋建築で1897年の建築。手前に見えるロダンの「考える人」は戦後1950年に置かれたというが、見事にマッチしている。周囲が純日本式建築物である古寺群の中にあって、ひときわ華やかに見える建物である。


紅梅

 国立博物館の敷地内にある庭園では紅梅が咲いていた。寒さのためか、咲いている花はごく一部だったが、ここだけは春を感じさせてくれた。


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