水と緑と詩のまち 前橋

(平成12年10月16日〜18日)

 日本公衆衛生学会に出席するため,群馬県前橋市に行った。群馬県といって連想するものは何だろう。草津温泉。尾瀬。かかあ天下とからっ風。小渕,中曽根,福田の歴代首相の出身地。温泉あり,観光地あり,有名人ありと,東京に近い割には特徴を失わず個性がはっきりしている県である。では前橋はどうか。県庁所在地でありながら主要幹線が通っていなく不便で,はっきり言ってあまり印象に残らない町である。今回も秋田から,秋田新幹線こまち,長野新幹線あさま,両毛線と乗り継いで前橋に到着したのだった。

群馬県庁
 前橋の新観光名所となっているのが,昨年完成した群馬県庁である。32階の展望ホールは,直通の高速エレベーターが通っていて,土日も休みなく夜10時まで一般県民に解放されている。随分と人件費がかかるだろうなと下世話なことを考えた。話によると,緊急雇用の特別事業で女性職員を雇い上げているそうだ。100%国庫負担の事業だが,確か13年度で終了するはずである。思わず,その先はどうするのと思ってしまった。
 展望ホールからは群馬県下が一望できるというが,たまたま夜に訪れたので,それはかなわなかった。その替わり,夜景がとても綺麗だった。31階のレストランは夜も営業していて,格好のデートスポットなのだそうだ。さもありなんと思える,雰囲気のいいレストランが入っていた。
 手前には昭和2年に建築されたという旧庁舎がそのまま残されていた。戦前の建物は風格があってとてもいい。最近はどうも古い建物が良く見えるようになってきた。道路を挟んだ向かい側に,群馬会館というこれもまた昭和初期建築の煉瓦造りの建物があって,ちょうど旧県庁舎と一対をなしている。

臨江閣
 県庁から広瀬川方面に,前橋公園を通り過ぎて歩いて行くと,臨江閣という古い建物があった。臨江閣は,明治17年に市の迎賓館として建築されたものだそうで,木造数寄屋造りのとても趣のある建物である。今もなお,市民に利用されているようで,こういう古い建物が現役で活躍しているのは嬉しいものだ。

広瀬川
 市の中心部を流れる広瀬川は,川幅は狭いが水量が豊富で,流れも速かった。柳の緑が川面に映えて美しい。河畔には散策路が設けられており,朔太郎の詩碑なども建てられていた。前橋が「水と緑と詩のまち」と称されている所以だろう。

萩原朔太郎像
 広瀬川の散策路を歩いていると,河畔沿いに前橋文学館があった。入口にたつ萩原朔太郎の像が何か思惟に耽っているように広瀬川を眺めていた。前橋に生まれ,40歳まで前橋に住んで詩作を続けていた朔太郎。朔太郎の詩は,まさにこの前橋の風土が生んだものだった。
 前橋文学館には,朔太郎のファンらしき女性グループが沢山訪れていた。前橋の郊外の敷島公園というところに,朔太郎の記念館があるそうだが,ここを訪れたあと急いでタクシーでそこに向かう女性グループもあった。

 前橋の初日の夜は,自治大の旧友たち(M氏とT氏)と懇親を深めた。出張に行く度に全国各地の自治大の仲間と酒を飲んでいる。僕にとって出張の楽しみは,自治大時代の仲間と旧懇を暖めることなのだ。
 さて,3人が行った店は「香味処 しらさか」という,カウンターと小上がりだけの10人も入れば一杯になってしまうような小さな店だったが,旬の肴がとても美味しかった。全国各地の地酒が置いてあったが,せっかく群馬に来たのだからと「赤城山」という群馬の地酒をいただいた。上品で,とても飲みやすいお酒だった。この店は新潟や宮城,長野の酒が中心で群馬の酒はこれ1種類だけだったので,群馬ではあまり酒は造っていないのかなと思ったが,群馬県工業振興課勤務のT氏は県内に40もの酒蔵があるのだという。どうして,地元の飲食店に置いていないのだろう。翌日は一緒に出張した課の上司たちと「関処亭」というところで食事した。この店には,「群馬泉」という地酒があったので,それをいただいた。山廃の本醸造で美味しい酒だった。ついつい,店の「群馬泉」を飲み尽くしてしまい後半からは別のお酒になったのだが,ここでも群馬の地酒は1種類のみだった。県外の有名な酒を置くのもいいが,もっと地元の酒を大事にして欲しいなと思ったのだった。
木村雅彦(平成12年10月29日)