RUMIKOの読書日記

2022年
カウンター設置 2003/02/11

 

11月27日(日)

「希望の糸」 東野圭吾 講談社文庫 ¥880
被害者女性の背景を巡り、犯人は途中で判明するも疑いは深まる、という真相を追う刑事の生い立ちと交差しながら描いた一冊。いつも東野作品はラストの救済シーンが秀逸。今回は現代らしい筋立てが二つあり、つくづく時代の流れを感じる。

11月24日(木)

「人生の旅をゆく 4」 吉本ばなな NHK出版 ¥1400+税
夫が図書館から借り。あ~、これは1~3も読みたい本だ、と思いながら久しぶりのばななワールド。彼女のパワーストーリーは自分にはすとんと入って来る。感心したのはp22『眠り』という文章で、『赤ちゃんが無心に眠る姿は見ているほうの心をきれいにしてくれる。寝ているだけで空気がきれいになって、安心する』とは新鮮。またp12~p17のあっこおばちゃんの思い出は2019に読んだ「イヤシノウタ」に掲載されていていたあっこおばちゃんの死に際する臨み方のモデルとなったあっこおばちゃんのエピソードもある。


「八本目の槍」 今村翔吾 新潮文庫 ¥800
賤ケ岳七本槍は秀吉の小姓仲間であったことから同僚石田三成の心中や出世、政治への思いをそれぞれのエピソードから描いた一冊。明治維新を予想させるような三成の政治観を描いている。


「スイートホーム」 原田マハ ポプラ文庫 ¥700+税
なんともほっこりする読後感短編集。スイートホームはケーキ屋さんの店名でもあるのだがこういう地域に愛される店はコロナに負けなさそうだなー、と思いつつ読了。姉妹の恋の行方や店から派生する新しい風を羨ましく味わう一冊。


「美しき愚か者たちのタブロー」 原田マハ 文春文庫 ¥810+税
国立西洋美術館の建築の理由となった松方コレクション収集と戦争をはさんで日本に戻された収蔵品の経緯についてそれぞれの登場人物の情熱が描かれた熱い一冊。それこそポンポンと絵を買える松方氏の財力と人間味も仰ぎ見ることができる、確かにあの時代絵を買うということは時流にそぐわぬ愚行かもしれないが、帯にもある『戦闘機でなく、絵画を。戦争ではなく、平和を」というメッセージがタイムリーなウクライナバンクしーを思わせる


「母の待つ里」 浅田次郎 新潮社 ¥1600+税
使ってみたいよブラックカード。ここに出てくる登場人物は一泊50万出してもOKの人生の成功者。だが故郷ごっこにハマっても本当の自分の故郷はうっすらと描かれてお気楽60代が羨ましい。だが実際にこういう60代もいるのも現実なのである。成功者の母親役を演じるちよさんが亡くなってこの地方での旅プランは終了するのだが、ちよさんの本当の家族は東日本大震災の津波で亡くなっているのが悲しい。登場人物の一人、墓までこの村に移しちゃおうかな?と考えてしまった室田氏の妹が墓と寺の下見に来てしみじみ思う。p135『働きづめに働き、耐えるだけ耐えても、しまいの十五年が幸福だったのなら人生の帳尻は合う』というのは名言。あと15年は生きたいものです。


「朝からスキャンダル」 酒井順子 講談社文庫 ¥610+税
ワイドショーネタや時事ネタを瞬発力良く描いたエッセイ。読んでいると既に平成も遠く。


「医学の卵」 海堂尊 角川文庫 ¥720+税
最近文庫になったので買ったが、上梓は2008年理論社からである。一連の作品にステルス曽根崎進一郎がいたことを思い出す。その息子が主役の作品。しかもレティノ患者だった佐々木君とナースしょこたんも出るから懐かしく読み。ちょっと伊坂作品の小題の付け方に似ているな、とも思いながら。


「デトロイト美術館の奇跡」 原田マハ 新潮文庫 ¥460+税
ワンコインもしない薄さの割りにアート好きなら大きな感動を与えてくれる一冊。デトロイト市の財政破綻の余波を受けてコレクションの売却か?という危機に陥った美術館にあるセザンヌの絵が強い思い出に支えられて美術館を救う。素封家コレクターが絵を寄贈、その中のセザンヌの妻の肖像画を愛する夫婦(妻は先に亡くなる)の慎ましい寄付、コレクションを守るために頭を悩ますキュレーターの強い愛がどんな解決を?


「英国貴族の城館」 増田彰久 河出書房新社 ¥15000
こんな立派な本借りていいの?と恐縮の一冊を向かいの幼馴染Nちゃんより借り。というのも二人で「ダウントンアビー」見に行ったから。映画の感想はこの広大で美しい庭園の草取りなんか一生しなくて良いんだろうな、と超現実的な感想だったが。そして豪華な写真集を借りた感想は歴代のご先祖様の肖像画に囲まれたお部屋でお食事って、仏間でご飯、って事よねー、がまず一つ。もうひとつは壁画や彫刻に囲まれるって圧倒されるなー、ということ。それだけでおなか一杯になりそう。半面、これだけ天上の高い家で育つとどんな大人になれるのかしら?という期待。


「あちらにいる鬼」 井上荒野 ¥750+税 朝日文庫
さて鬼とは誰をさすのか?映画化決定とはいうものの寂聴さんの生き方中心に描いて話題性を持たせてるんだろうな、などと思いつつ読み。これも本友Tさんより借り。寂聴さんと男女の関係になった井上光晴氏、その妻の心中は描かれず、井上氏を巡る妻と寂聴さんの二人芝居の様な構成で描かれている。


「星守る犬」 原田マハ 双葉文庫 ¥600+税
犬を飼ったことのある人ならなくして読めない一冊。そして現在二人の娘がそれぞれの家庭で飼っている犬の愛情にあふれた人をまっすぐに信頼している黒い瞳を思い浮かべては胸が詰まり、という私。死んでいった飼い主の「おとうさん」に寄り添って死んでいった犬の気持ちを描いていく作品。あとがきでは村上たかし差Sンのコミックをマハさんが小説にしたという稀有な小説。正月娘が来るなら読ませたい。


「女はいつも四十雀」 林真理子 光文社文庫 ¥680+税
雑誌「STORY」の連載エッセイ5年分を所収。40代女子のおしゃれ雑誌は高齢者が読んでいても楽しいのは林さんが同世代だから。そして林さんのリッチマダムライフが「STORY」世代にぴったりなのだろう。p296『長い人生、女には時計期とジュエリー期があるのではないか。タイトルにも四十代を過ぎると時計期とジュエリー期の遺産で幸せに生きていける。』とある。私はこれからなのかしら?


「サンドの女 三人屋」 原田ひ香 実業之日本社文庫  ¥748
三人姉妹がもとは朝・昼・夜と営業していたけど結局夜の居酒屋営業となった店の長女と次女・三女と彼女たちにまつわる男性達の姿を男の側から描く。時間差でオーナーと営業形態が替わるのも今どきならあり、と思いつつ読み。


「人生オークション」 原田ひ香 講談社文庫 ¥610+税
出版社とはよく本を売るなー、と感心。「三千円の使い方」で、ブレイクのひ香さんの他の作品も似たようなジャンル分けで売らんとする。そして22歳のヒロインがネットオークションで叔母さんの物を売ろうとするが、知らなければ高齢一人暮らし女性か?と思ってしまう叔母さんてまだ40歳。もう一つの作品「あめよび」で結婚に二の足を踏む輝男に業を煮やし、ついに宣言p220『あなたの人生は、結局あめよびなのよ。いつもずっとあめよびなの。本当の人生はどこか別にあるんだ、と思っている(後略)』おぞらく人生は探し始めてしまうとループに陥るのかも・。


「彼女の家計簿」 原田ひ香 光文社文庫 ¥748+税
戦中も家計簿をつけていた、と「三千円の使い方」でおばあちゃんが言っていたシーンと被る。戦時中の家計簿を付けていた女性のその後にまつわる物語に関わっているNPO
代表の女性の過去も明かされひ香さんの作品の中ではミステリアスでいながら暖かなラストが楽しめる一冊

8月18日(木)

「流浪の月」 凪良ゆう 創元文芸文庫
読み終わってから映画も見に行ったが映像になると暗さ倍増で、9歳の更紗を同居させた19歳の文が誘拐事件の犯人となってしまった二人の時間と更紗が付き合った彼がDV男という迷路のような救いの無さを延々と描いている。それでもラストは文と更紗の世界になってゆく。


「三千円の使い方」 原田ひ香 中公文庫 ¥700+税
新聞広告で何度も見て興味ありだったがついに購入。タイトルではないが代金¥700+税の使い方としては「塞翁の盾」同様充実の使い方なのでは、と満足。群よう子さんの「三人暮らし」に続く手元に置いて何度も読むに耐えられる一冊。ので沢山の人にお薦めしたり貸したり。娘二人の4人家族と夫の母73歳、加えて長女の夫と娘を中心に家庭経済について描かれた短編集。73歳で働きたい、と思う琴子さんにはエールを送るが、この年齢でひ孫持ちとは子どもの結婚が余程早くないと無理!と現実的な感想も。それぞれに悩みや目標があって日常感満載。P132第3話。目指せ貯蓄1000万!のヒロイン御厨家長女の真帆。玉の輿でゴージャスな暮らしが羨ましい友人とのランチで、『真帆はずっと、そういう夢について考えるのをやめていた。日々の生活に追われて。自分は何に追われていたのだろう。』って昔の私?P142の真帆の愚痴『きっとあそこにいた人たち、皆、私と小春のこと」、比べたと思うんだよね。結婚で、というか相手で女はこんなに変わるのかって。』P185真帆や美保の祖母琴子さんの知人安生と恋人の関係について、『安生ときなりの関係のようにも思えた。どうでもいい話をしながら、本当に必要なことを先延ばしにしている』という文章にもどれもがあるある。


「沈黙のパレード」 東野圭吾 文芸春秋文庫 ¥810+税
湯川博士の分析は変わらず、それに加えて今回は行きつけのごはん屋さんとの人情がらみで柔らかな部分も見せてくれる。複雑な犯人像とそれまでの歴史を紐解きながら味わえる一冊。


「白木蓮はきれいに散らない」 オカヤイズミ 小学館 ¥1320+税
読書家Tさんのアンテナは高くいつも注目の本を貸して下さる。今回お借りした2冊もまさにタイムリーである。60歳間近の女性3人グループが殆ど交流なかった3人グループが、更に交流無かったはずの高校時代の友人が孤独死をして経営していたアパートを遺産として託されたところから3人が人生を見つめ直すストーリー。結局亡くなった友人の真意は推測するしかないが、結局アパートは解体、白木蓮も切られてあっけないもんだ、所詮他人はなー、と思わせる一冊。実際戸建てを相続すると一年は木は抜かない方が良い、と造園さんには言われたけどね。


「黛家の長男」 砂原廣太朗 講談社 ¥1800+税
士農工商と言われた江戸時代、農家男子は農家に婿に入っても農民として一生を終え武家は婿入りした先によって身分も人生も変わるから大変ねー、と思いながら読み。Tさんから借りた一冊で帯には直木賞候補になったとあるが主人新三郎のキャラが不明瞭なまま事件に巻き込まれてゆく様を読み進めた。ラストは三兄弟の因縁の絆が明かされる。


「丘の上の賢人」 原田マハ 集英社文庫 ¥580+税
P130「おかえり」ちと言ってくれる人がいるところがふるさと、と気付いた旅屋おかえりちゃんの北海道編。出身地だからこそ避けていた北の大地をついに訪れたえりちゃん、依頼人が会ってほしい、と依頼した人々との触れ合いが旅に深みを増す。えりちゃん芸能界デビュー前の女子高生時代のエピソードは漫画にしている。依頼人のめぐみさんの思い人純也さんのお母さん親孝行についてP99「自分の子どもが、人生で一番やりたいことを実行している。親にとっては、それが何よりうれしいことなのよ。」という言葉も秀逸。


「燃えよ剣」上下 司馬遼太郎 新潮文庫 各¥790+税
本友Tさんより借り。夫は岡田君主演の映画も見に行ったが私の中では三谷大河の「新選組!」の山本耕史君がやはりハマるわー。司馬作品なんて高校の時に出てるのを読破して以来なので45年ぶりのリピート。ただただ思うのは土方にしても龍馬や晋作彼らの人生はぎゅっと詰まった人生であったことよ、と45年たって余生のように暮らす今と比較。


「鎌倉燃ゆ」 谷津矢車他 PHP文芸文庫 ¥990+税
いかにも大河便乗感のする短編集だが鎌倉殿を取り巻く人物を一人一人描いているところに興味を惹かれる人も多いであろう。「燃えよ剣」同様ついつい今の大河の出演者を当てはめてしまうが本作で出演者とリンクするのは獅童景時と大志重忠であろう。不勉強で重忠をよく知らずにTVを見た本書を読んだりしているが武蔵の国の出身なのね、と思えば深く知りたくなる非業の武辺者。


「泥」 松家仁之 集英社 ¥1500+税
呑気症に悩み高校生活につまずいた薫が親元を離れて大叔父のジャズ喫茶で住み込みバイトをしてゆく中で再生していくと進化したひと夏を描く。オーナーの兼定じいさん、雇われながら淡々と完璧に仕事をこなす岡田との交わりの中で閉じていた自分を少しずつ開放してゆく。これもまた本友Tさんより借り。


「世界史は化学でできている」 左巻健男 ダイヤモンド社 ¥1700+税
これも本友Tさんより借り。厚く難しそうなタイトルだったが意外なほど化学史は面白く、後半の薬の話、プラスチックの話、核の話は進化してゆく科学の脅威の方だけを感じてしまった。地球や人類を汚染してゆくのは結局人間なんだ、と考えると反省しきり。


「思うとおりに歩めばいいのよ」 ターシャ・チューダー 食野雅子訳 メディアファクトリー ¥1600+税
こちらは人生の師匠Oさんより借り。本を貸して下さる方が共に89歳だから老後の過ごし方ってなー、と考えさせられる。自分が89歳になれたとき、あちこち痛いと愚痴だらけの老後か、痛みや不自由はあっても本を読む余裕のある老後か?おっとその前に89歳まで生きられるのか?しかも私たち世代は年金で暮らしていけるのか?が課題ね。画家でもあり美しい庭づくりで注目のターシャさんの日々のつぶやきを写真と共に描く。日本の暑い夏、だらしない格好をして読書の自分を省みると、いつでも長袖、ドレスのターシャさんの暮らしぶりにびっくりだが、庭では裸足の写真にもっとびっくり!


「最期のときを見つめて」 ターシャ・チューダー 食野雅子訳 メディアファクトリー ¥1600+税
92歳で人生を閉じたターシャさんの周囲からの介護や助けを受けたラスト一年の言葉と思い出の写真これもOさんから借り。母、祖母もそうだったがゆっくりと死を重ねた女性が亡くなることの多い年齢なのか92歳。私もそこまで生きて歩けていれば孫の結婚式に呼ばれたり、ひ孫誕生を祝ったりできるかしら?と思いつつ、何歳で人の手を煩わせることになろうと感謝を伝えられるお年寄りになりたい、と願う。これは自分がそうなろうと思えばできることだからね。ちなみに男性は一度67歳で死の淘汰があるような気がする。


「あなたは誰かの大切な人」 原田マハ 講談社 ¥580+税
共にマハさん好きの従妹から借り。ここにも「波打ち際のふたり」が掲載されている。ヘルパーやってた頃利用者さんに「自分の事も大事にしないとな」と言われてから折に触れ年長者さから言われるこの言葉。余程私が我慢してるように見えるのか?どんだけ可哀そうなんだ、私、と思うほど自分ファーストにできない生き方を見抜かれているのね。P77『ねえ、マナミ。人生って、悪いもんじゃないわよ。神様は、ちゃんとひとりにひとつずつ、幸福を割り当ててくださっている。別の誰かにとっては仕事で成功することかもしれない。でもね、いちばんの幸福は、家族でも、恋人でも、友だちでも、自分が好きな人と一緒に過ごすってことじゃないかしら。

5月12日(木)

「心配事の9割は起こらない」 枡野俊明 知的生き方文庫 ¥680+税
女性誌でも心の持ち方で人気の枡野さんだが、まさか夫がこれを買ってたとは驚き!興味あったのでもちろん読んだが、オーバー60の身には実現できてないが、聞いたことある仏教用語や歴史の名言で人生を解説。結局他人に煩わされることなく自分軸を持って生きよ、ということかな。


「素敵な日本人」 東野圭吾 光文社文庫 ¥700+税
珍しく短編集だがそれぞれに小さな謎を潜ませて飽きずに読める。季節の行事に盛ったミステリー、」思いがけぬ仕掛けのミステリー、と東野さんの魅力を味わえる一冊。


「人生100年時代の『こころ』と『体』の鍛え方」 五木寛之 PHP研究所 ¥1350+税
枡野さんの本といいこの本といい夫も年齢を重ねたな~、と実感。もっとも枡野さんの本は義母の為に買ったという64歳になっても親孝行。いつもメールのやり取りをさせてもらい、お互いの近況や深い話もできて感謝の友人に「体の声を聞く」と送ったら五木さんも同じことを言ってる、と返信があったが、今日の本に似た表現が出ていた。全体の内容は60代の自分には今更だが、p200の保清への意見はコロナ時代にはどう受け止められるかな?最後まで読んでのp215五木さんの起床時間は夕方の5時って思わされた一冊。


「満願」 米澤穂積 新潮文庫 ¥670+税
先日の直木賞「黒牢城」¥690+税ではなく短編集である。解説にもある通りp421ラストで迫って来るざらりとした感覚がどの作品にも漂っている。「万灯」「夜警」「満願」がテレビ化もされた読み応えあるミステリー。ちなみに2014に「このミステリーがすごい!」「このミステリーが読みたい!」「週刊文春ミステリーバスと10」のそれぞれ1位を獲得している


「明るい夜に出かけて」 佐藤多佳子 新潮文庫 ¥670+税
少し精神的に不安定になって大学を休学、親たちからも離れるべく一人暮らしをしてコンビニでバイトする主人公、とまとめてしまえばそんな彼の再生ストーリーなのだが、とにかく外に出ているだけで他者との関わりが発生するわけで。そこでもがきつつやりたいことを見つけていく青春小説。娘Aが大学の時してたコンビニ深夜バイトを思い出す。事件にも事故にも巻き込まれず卒業できたこと今頃だが感謝。


「おもかげ」 浅田次郎 講談社文庫 ¥840+税
白岡暮らしで89歳のふたりのご近所のご婦人が上手な生き方指南をしてくれている。お一人は隣の班の方だがお茶のみの輪に参加させて下さるOさん。独居、庭に畑を作り、料理や読書もお好き。こちらは近所在住の息子さんが図書館で借りてきてくれるらしい。そして今回は斜め向かいのお宅のTさんから借り。こちらは外出はままならなくなっているが同居の娘さんがネットや本屋で調達してくれる。共に加齢と共に行動半径が狭くなるのは他の高齢者と同じだが、読書の習慣があると在宅でも穏やかに暮らせるモデルでもある。本書は退職送別会帰りの車中に脳出血で救急搬送された65歳男性が主人公。夢うつつの中での本人の意識、付き添いや見舞いに来た人の呼びかけが描かれ、ラストで・・・コロナの今では面会もままならず亡くなった人々、そして現実に私の周りでり患した4人の知人、友人のその後が思い出と共に胸に迫る一冊となった。60歳も過ぎてゆくとすでに親ではなく同世代になってくるからますます主人公である竹脇の思い、周囲の思いがリアル。すとーりーを種明かしするわけにはいかないが、p242の竹脇の思い『六十五年で終わったのでは、帳尻が会わない。人の一生が均等な禍福で糾われてるとするなら、このさきまだ十五年やニ十年の幸福な時間が、余ってなければおかしいと思う』という文章はそのまんま今の私の思いだし、闘病中でなくてもこの年になったのにまだ親の介護が続いてる人たちの本音だよ、と思いつつ読み。p287『それはちがうわ。みんなが不幸なときの不幸と、みんなが幸福なときの不幸はちがう』も現代を象徴しているようだ。考てみれば浅田さんには映画化もされた「地下鉄に乗って」という作品もあり、本作も戦後の東京の発展と地下鉄が出てきてリンクしてるなぁ、と思った。


「ほとほと」 高樹のぶ子 毎日新聞社 ¥1600+税
歳時記の季語をタイトルにした短編集で、どれを読んでも命の強さ、儚さを豊かな情緒で繊細に描き、どこを読んでも何度でも楽しめる素敵ワールド。不勉強で芥川賞受賞の「光抱く友よ」しか読んでおらず、女性ならではの文体、という印象だったが、その持ち味が発揮された作品であった。こんな上品な本を貸してくださったT さんに感謝。


「白光」 朝井まかて 文芸春秋 ¥1800+税
イコン画家山下りんが熱い思いで故郷を離れ、いかにして画家としての実績を積み上げて来たかを描いた大作。以前住んでいた大館市にも曲田の福音堂に山下りんの作品があることで有名だったがなぜ大館に?と思ったが、ロシヤ正教は函館からスタートした、というのを知って納得。しかも曲田以外で知ってる神田のニコライ堂の名にもなったニコライ宣教師は東北弁なのが興味深い。驚いたのは意外にりんさんは信仰心は篤くなかったこと。絵を描く情熱の方が勝ってたんだ~、と分かった。これもTさんから借り。


「羊たちは安らかに草を食み」 宇佐美まこと 祥伝社 ¥1700
これも向かいのTさんから。タイトルの意味がどこで明かされるのか、とラスト近くまで分からずに読んだが、境界で演奏されたバッハのアリアだと判明。ウクライナ問題の今読むと身のすくむ第二次大戦後の満州引揚者の凄絶な歴史と重なる。今は認知症になってしまい施設入所を控えた益代さんの過去を遡る旅に付き添う女性二人も、実は一番若い(とは言え77歳)富士子さんも余命宣告を受けていたことを告白されたことを悲しむアイさん(80歳)に向けてp357『別れる辛さを思うより、この世で出会えたことを喜びましょう』と励ます富士子さんの言葉がすとんと自分の胸にも落ちた。ちなみにタイトルとなった曲はp347によるとバッハが領主の誕生日に向けた曲で「よき牧人が見守るところ、羊たちが安らかに草を食む。統治者が優れているいる地では、安息と平和が訪れる」とソプラノが高らかに歌い上げるものだそうで、今の世界情勢にぴったり。


「塞王の盾」 今村翔吾 集英社 ¥2000
最近の文庫本の高さを思うと¥2000はコスパいいかも、と思いながら読み。直木賞受賞&その時今村さんの反応が強烈キャラとして印象深い。話題作を貸してくださったTさんに夫婦で感謝。安太衆という城の石垣を作る専門職集団の物語が戦国時代の武将との関係とあいまって新鮮な展開。戦災で家族を亡くした少年匡介と彼の素質を見抜いた塞王と呼ばれた源斎との交わりと戦国大名たちの戦いを描いて飽きることなく一気読み。時代背景や描き方は和田竜「のぼうの城」「村上海賊の娘」に似ている印象だが、京極高次、立花宗茂に興味がわいた。


「平場の月」 朝倉かすみ 光文社 ¥
従妹から借り。しかし重すぎる内容だよ~、と思いながらなんとか読了。50代同士の男女にしては男が何だか若い感じの描写でちょっと引くが、哀しいラストにも耐えるのが熟年世代、人生、ということで。何度も出てくる『平場』というワードが庶民60代には現実的」

1月30日

「店長がバカすぎて」 早見和真 ハルキ文庫 ¥690+税
上梓されたのが2019、7月、ということは書いていたのはそのずっと前。と思えばこの帯の「私の仕事と人生、これでいいの?」と28歳京子ちゃんが言ってるようだが、コロナの今、『いや~、危険な選択だよ!』と言ってあげたい親心。ちょいミステリーな短編集、という形は初めて読んだ時の坂木司さん的。それにつけてもさまざまな人との交流で京子ちゃんのキャパも変わっていくが表題の第一遍目の京子ちゃんのいらいらっぷりは身体に悪いよ~、と心配になるほど激しい描写。ま、そこから店長への印象が変化してゆく過程を楽しめるんですけど。


「暗幕のゲルニカ」 原田マハ 新潮社 ¥1600+税
たまたま事前に「アノ二ム」を読んでいたので展開が良く似てるな~、と楽しみながら読み。タイトルで分かる通りピカソ周辺の物語と現代の主人公キュレーターの奮闘の物語。ゲルニカは特定の思想集団や国の所有ではなく「わたしたちのもの」と言われて作品のメッセージ性を深められた一冊。それに付けても原田さんの作品に出てくるヒロインはどれもハイソなんでしょ?と羨ましく読む。ピカソ、ポロック、奇しくも美術の新時代を築いた二人をそれぞれ作品化してらしてさすが。


「元彼の遺言状」 新川帆立 宝島社文庫 ¥750
従妹より借りて初めて読んだ作家さん。28歳で収入2000万超え、持ちマンションとは弁護士はすごいなー、と自信に満ちた態度に感心しつつ、病死として処理された元彼の死の真実を暴こうとタフに闘う姿にスッキリ!


「常設展示室」 原田マハ 新潮文庫 ¥550+税
これも従妹から借り。血は水よりも・・・ということわざがあるが、会っている割に60年も本の話などしたことはなかったが、いざ互いのハマっている本の貸し借りの話になるとこの原田さんと恩田陸さんが発端だったから不思議。タイトル通りのアート短編集ではあるが、文庫本なので解説があり、今の朝ドラ「カムカム・・・」の初代ヒロイン上白石萌音ちゃんの解説がとても初々しい。20代の若い感性がアートに目覚める姿が人生の先輩としてとても嬉しい。もうすぐ3代目になっちゃいそうだけどね。アートに興味を持てた人とそうでない人とでは人生の深みに差が出ると思うから。


「歌舞伎町ゲノム」 誉田哲也 中公文庫 ¥740+税
「ジウ」サーガ9という帯書きにある通り、警察小説とは違った組織の歌舞伎町の悪を正す7人のシリーズ。短編集であるのも珍しい。土屋昭子、東との今後も妄想できそうな最終編。「ゲノム」と言う通り、この町で生き続ける者、この町に流れ着いた者7人のクールだが強い絆を味わえる一冊。


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