RUMIKOの読書日記

2019年
カウンター設置 2003/02/11

 

11月17日(日)

「ホワイトラビット」伊坂幸太郎 新潮社 ¥1400+税 
2017作の立てこもり小説。登場人物のなりきりに振り回されて時々伊坂君の文体も説明調になる。それでもやはり伊坂カラーなのは収束が明るいところ。DV被害者にして殺人を犯してしまった母、息子、妻子を亡くして報復殺人をした夏之目それぞれ前を向けるところはさすが。描写として美しいのはp、154の夜空の描写が深い星空の空気感まで下りてくる感じ。


「デートクレンジング」 柚木麻子 祥伝社 ¥1400+税
意味は恋活少し休んで自分の人生見つめなおそう、的なことのようである。強迫的なデートをノルマのようにこなすのはやめよう、という趣旨であり、アイドルグループの歌のタイトルでもある。「あまからカルテット」は4人の女子だったので主役も4交替になっていったが本作は彼女たちより少し年上の35歳女子二人の友情と人生の歩み方の模索を描いているので更に深刻かな。それでも周囲の人との関係を築いたり修復したりしつつ自分なりに進む未来を考えてゆく様子はやはり前向き。


「人生を変える断捨離」 やましたひでこ ダイヤモンド社 ¥1500+税
大ブームになった言葉&片付けの作法だがご本人の言葉を読むと身体の代謝を上げるように片付けによって家の代謝(気の流れ)を活発にする、そしてそれはヨガの呼吸法=まず息を吐き出す、に通じる、という論には大いに共感。秋田の家も実家にしても早く来い来い私の時代。


「空から森が降ってくる」 小手鞠るい 平凡社 ¥1500+税
初の作家さんだが表紙の写真とタイトル、新刊と言うことで借り。図書館はありがたや。今回は4冊も新刊で借り。ニューヨーク州北部ウッドストックに1996年夫と共に移住、森に囲まれた家で暮らす日々や旅の様子をつづったエッセイ集。タイトルの空から・・・の意味は舞い散る紅葉を表したメルヘンチックなタイトルなのであった。


「九十歳。何がめでたい」 佐藤愛子 小学館 ¥1200+税
やっと借りられた90歳の母のためのこのタイトル本。それにしてもこの本にたどり着くまで結構読んだよ佐藤さんエッセイ。若い頃は意気軒高だったがここまで生きると身体の状態はうちの母と変わりないわね。若い頃は「「神様は不公平」なんて隣の芝生を見て思うかも知れないけどこの本の90歳を見てるとやっぱ宏平かも、と思うほど。60代の私には経済力、親の面倒見る見ないなどなど「老後格差」は」続いてるけど30年かければもう少し平らになるのかしら、と思いながら読み。それでもあちこち出てくる身体の不調を「老化だから治らないんです」と達観できるのはやはり強いな、と思う(p25~27)又、人生相談を読みながらご自分だったら一刀両断、というところも佐藤さんらしい。


「生きづらさについて考える」 内田樹 毎日新聞社 ¥1600+税
孫が合気道やらないかな~、と提案しては娘に無視されてる私だが、思想家であり武道家でもある内田さんの本だから「生きづらい」のは心かと思って借りたら政治でした。それでも教育論の章になると(p138~)新大学生に対して「自分が機嫌よくいられる場所」を探そう、と提唱(p180)それは可動域の広い場所=ニュートラルで選択肢の多い自由な状態に立つこと=オープンマインドでいろ、と言っている。自分の理解の範疇を超える人と出会ったら耳を閉ざすでなく、まず耳を傾けろ、ということ。p182『自分が理解で、共感できることだけを聴き、自分がすでによく知っている分野について知識を量的に増大させることは「学ぶ」とは言いません。「学ぶ」というのは、自分の限界を超えることです。』とは心して行きたい。又人生100年時代ということで70歳まで働こう、に関する意見は私も同じ。p269でリタイヤ男子に「他人に叱られる」為にお稽古事を勧める下りも共感。慢心への戒めであろう。p285のあとがきのところで中央年齢=その年齢よりも上の世代と下の世代の人口が同数のラインが日本は45、9歳で世界最高齢。これは治安が良く統治機構が機能していて公衆衛生への気配りが行き届いてる先進国である証。乱暴に言えばテロや殺人事件がが少なく小児医療の充実と言うことだろう。他国も調べてみると2位ドイツ、3位イタリア、4位ブルガリア、5位ギリシア、6位オーストリア、すべて「第2次世界大戦の敗戦国」とのこと。これを内田さんは「ファシズム体制」で戦争を始めて敗北した国では戦後しばらくしてから(木村的には戦後すぐは産めよ増やせよ、のベビーブームに名rのは周知の通り)子供が生まれなくなった」と読み解く。それは内田さんや私たち、更にもう少し上の世代と戦争に召集された世代との温度差にあるのでは、とのこと。戦争経験者は「敗れても終わって良かった」と思うが、そのあとの世代は「敗れたから今でも責任を負わされてる」と思ってしまう。そのストレスを感じ始めるのが1995年前後から国を覆っている暗さ=少子化なのでは、と考察している。


「『捨てなきゃ』と言いながら買っている」 岸本葉子 双葉社 ¥1400+税
私も本当はデパート、買い物大好きである。でもそんな環境にいないことでブレーキがかかっているのが幸いなのかも。いやー、エッセイだとは言え、岸本さん、買ってる、買ってる!でもそれよりすごい返品の手間。それこそ」大丈夫か?と思うほど。ま、エッセイの通販生活と思って読めば。


「ねじまき片思い」 柚木麻子 東京創元社 ¥1300+税
「あまからカルテット」が今のところ今年一番おすすめ!と思ってる柚木さんの作品だが、ちょっと「あまから会社版風でヒロインも「あまから」の誰かさんに似ているような・・・と思いつつ読み。ただそこは版元が創元社と言うことでやはりミステリー仕立てな短編集で宝子さんの恋をまとめあげてうまい。孫がハマってるプリキュアと思われるアニメキャラを生かしたおもちゃ開発シーンも面白い。


「英国式スローライフのすすめ」 大原照子 大和書房 ¥1500+税
私はイギリス人の暮らしが好きなのだろうか?と頭のすみで思いながら結構共感を持って読み。しかも大原さんの本は「少ないモノで豊かに暮らす」や「シンプルライフ術」等今はやりのミニマリスト系な著作も読んでいるから彼女の考え方に共感してるのだろうか?いやきっと古き美しい物を愛する西洋骨董おおはら店主としての彼女に憧れているのだろう、と納得。本作はイギリス時代に出会った人生の先輩の暮らしぶりを一人ずつ丁寧に愛情をもって描いている。


「サブマリン」 伊坂幸太郎 講談社 ¥1500+税
表紙を見、少年を搬送する陣内、という最初のシーンを読んで、あれ?「チルドレン」?て似た作品なかったっけ?ま、まさかのそれを忘れての二度読み?と焦ったら裏表紙作者の説明に2004年の「チルドレン」の登場人物が再登場、とのことでちょっと安心。前作の時も少年犯罪の取り扱いの難しさを考えさせられたが、同じ5文字タイトルでも本作ではタイトルに合った伊坂表現が重くぽつりと語られ、気付いた人はほろり。p211『彼の起こした事故は、10年経っても消えることがなく、姿が見えない時もどこか、視界の外に潜んでいる。水中の潜水艦のごとく、そしてことあるたびに、急浮上し、若林青年に襲い掛かるのだ。』青年が吐露する苦悩を聞く武藤君も答えられず苦しむ。そして埋め合わせができず苦しむ若林君は言う。p212『埋め合わせができなくて苦しいなら、埋め合わせちゃいけないんじゃないか?って。それが罰なんですよね。楽になるようなことはしちゃいけない。苦しい状態でいなくちゃいけないって。だけど、俺、やっぱりつらいです。」そして生きていていいのか?生まれてこなければ良かったのか?という存在の危機を吐露する若林青年に武藤君は結果伝えることはできなかったがp213『生まれてこなかったらではなく、悔いるとすれば一瞬のミスで、ほんの小さなミスで自分の人生を失ってしまった「十年前によそ見をしなかったら、だ」と力強く思う。救いを孕む小説。


「ごめん」 原田マハ 講談社 ¥1500+税
珍しくひらがなだけのタイトルね、と思って借り。タイトルの短編も他も親や夫、友人などを失ってゆく喪失感とほのかな救いを描いてどれも哀しい作品集。ただ読めばすべての」作品が「それでも明日に続いていく」と感じさせられるところがマハさんらしい一冊。


「やっぱり 食べに行こう」 原田マハ 毎日新聞出版 ¥1400+税
知らなかったよマハさん、蓼科、東京、パリにおうちがあるなんて!そしてそこを軽々と移動してたからあんなに開放された作品たちを書けるのね。タイトル通り世界各地、日本各地を食べ巡る食のエッセイでありながら、あとがきにあるように子供の頃に家族旅行で行った観光地での「食堂」での味と共に甦る幸せの風景をなつかしむ様が年を重ねた自分には郷愁を呼ぶ。それは私にはY町のT食堂。家族で行ったわけではないがヘルパー時代の利用者第一号さんが教えてくれたカツ丼を後日夫と雛巡りの時に体験、しかもまた後の年、大曲花火仲間と行った雛巡りでも再訪したのであった。p149ピカソが幼少期描いた鳩の絵に驚愕、とあったが私も昔ピカソ展で見た鳩(おそらく7歳かと)に天才を感じた記憶が甦った。ちょうど今は大好き恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」が映画化され、天才たちの世界を見たばかり。読書っていいわね~、と実感。


「ファミリーデイズ」 瀬尾まい子 集英社 ¥1300+税
読後新米ママの娘に即買いしたほどタイムリーな一冊。女児というところもビンゴなのでしばらくこの一冊で笑いを足して子育てできるであろう。24時間365日子育てに休みはないけれど子供の仕草言葉にほほえみでなく爆笑して緊張を解く、って実はとっても大事なんじゃない?と瀬尾さんの作品を読んで思う。


「二人の推理は夢見がち」 青柳碧人 光文社 ¥1400+税
読みやすいミステリーなので人気の程がうかがえる。超能力を持つ二人が故郷で事件を解決してゆく。第二作もあるようなので借りてみよう。


「ワルツを踊ろう」 中山七里 幻冬舎 ¥1600+税
映画化された「蜜蜂と遠雷」を見に行ってクラシックにどっぷり浸ってきたが本作でも「美しく青きドナウ」を脳内再生しながらラストの殺戮シーンを読む。巧みに誘導された殺人事件までの経緯、伏線が描かれる。リストラ、離婚の憂き目にあって了衛が戻った過疎の故郷の風景はそれでものどかで何度も行った八木沢集落の佇まいを思い浮かべた。


「3時のアッコちゃん」 柚木麻子 双葉社 ¥1100+税
「ランチのアッコちゃん」のアッコさん経営の「ポトフ&スムージー」のお店を各地に散りばめながら繰り広げられる自信喪失女子の再生短編集。自分の中で今年のおすすめの「あまからカルテット」同様そのあたりの人生を何とかクリアしてきた私たちは作品の中の女子達にエールを送りたくなる作品。


「マジカルグランマ」 柚木麻子 朝日新聞出版 ¥1500+税
返却ギリギリまで集中読み。柚木さんには珍しく75歳正子さんを巡るどたばたを描く。なんと職業は女優!最初は監督の夫が亡くなって毀誉褒貶の嵐にさらされる正子さんと突然同居の杏奈ちゃんの再生も描いてちょっと進行がまどろっこ(おそらく夫との思い出がぐるぐると描かれるから?)が後半、売却したい住まいをホラーハウスとして自分や周囲の人の仕事ややりがいを生んでいく様子が斬新。そして正子さんの勢いはラストまで突っ走る。娘に言われる。くさくさして長生きより寿命1,2年短くなっても楽しければ満足な人生じゃない?目が開いたね~!


「手ぶらで生きる。」 しぶ サンクチュアリ出版 1200+税
1995年生まれって何歳?と驚きながら読み。中学までは超が付くほど裕福、その後一人暮らしするまでは一転して貧困、と生活レベルが乱高下している方のようだが彼の若さを考えるにその経験てまだついこの間ですよね。そこで一転ミニマリストとしてブログで人気の方の暮らしの様子や考え方をまとめた一冊。シングルなればこその暮らしぶりではあるが、p133「どんなに膨大な時間を確保しても、健康な体なしに時間をいかすことはできない。健康な身体を維持することが、時間を確保する手段としてはもっとも有効なのだ。」は100歳時代を生きるであろう若者の覚悟として◎2018初版だがp157でNHKのアニメでやってた「三月のライオン」にも言及。


「未来を、11秒だけ」 青柳碧人 光文社 ¥1500+税
「二人の推理は夢見がち」のシリーズ。ここでは早紀ちゃんも司君と同じ力を信じ、使おうとする。シェアハウスが舞台だが最年少の家出娘エミリちゃんの再生も並行して進んでゆく。前作同様事件の犯人を巡る人々の哀しさも丁寧に描かれている。


「ばななのばなな」 吉本ばなな メタローグ ¥1300+税
1994出版の対談&ばななさん自ら語る作品論。夢中で読んだ初期の作品を思い出した。


「リアルワールド」 桐野夏生 集英社文庫 ¥360+税
いかにも桐野さんらしい危うい世界を堪能。女子高生達の不安定さと死という不条理。でも本当の犯人は生きてるって京アニの凄惨で悲しい事件のように救いがたい。今や現実もゲームも小説よりすごいことになってる気がする。


「祝祭と予感」 恩田陸 幻冬舎 ¥1200+税
やーん、阿漕~、と思いつつ読み。直木賞、本屋大賞ダブル受賞の「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ短編集。すべてタイトルが○○と××というところで帳尻合わせか?映画を見てから読むとどうしても出演者がちらついてしまうのだがそこは難しいところですよね。ただ脳の作りで天才の人、遺伝子的な天才の人とは屈折率が違う気がする。特に塵君を見るとね。

8月30日(金)

すっかりご無沙汰している間に娘の出産があり、その支援、会いに来る娘母子と夫の接待、お盆であっという間の二か月が過ぎてしまいました。前回孫の誕生から5年両肩のひどいコリと痛みにつくづく年を感じます。でも明日は大曲の花火、毎年の楽しみを味わいに帰って来ました。

「泡沫日記」 酒井順子 集英社 ¥1300+税
こちらは2011.2~2013、2の集英社WEB文芸「レンザブロー」に初出とのこと。なのでp34全線開通した「はやぶさ」に乗った、という文章を載せてすぐ東日本大震災に見舞われる。40代になると「初めて〇〇した」という経験が少なくなってくるが同時代の日本人は「初めて」「未曾有」と言われた震災とその後を経験することになる。「まさか」「備え」「覚悟」が語られ、酒井さんの日常を共に味わえる一冊。


「失われた地図」 恩田陸 KADOKAWA ¥1400+税
装丁の深い紫が好み、と手に取りあっという間に読了。2017発行なので最近の恩田さんの気持ちに添ってるかな?いや~、去年孫の七五三で久しぶりに大阪城周辺に行ったからその前にこの本を読んでたら前回読書日記に上げた大坂城パワースポット本と併せて大坂ファンタジーを楽しめたな、としみじみ。私には新しい風雅一族の戦いを描いた連作短編集だが、p80「この都市の最後の勝者は彼らなのだ。すべては緑に抱きしめられ、包まれ、飲み込まれていってしまうのだ」という部分は時子ちゃんが主人公の「エンドゲーム」(2009)につながっているようで、だから恩田作品はたまらない!


「35歳、働き女子よ城を持て!」 高殿円 KADOKAWA ¥1350+税
新刊で借り。ちなみに今年結婚36周年を迎えた私たち夫婦は自分で家を建ててない。6年間新築アパートに住めたのが唯一自分で間取りとか立地で選んだ暮らしだが、これも賃貸だったので家具を買い足すことはしてもリフォームはできないし、間取りをいじるほどのリフォームは去年やった私の実家だし。自分がこの主人公だったら、と同じ体験をするつもりで借りてみた。しかも正社員ではなく年収300万円の契約社員が目黒に城を構えたからすごい!そして家を持った、という自信でインテリアとか食器とか暮らしのランクが上がってゆくのだ。(p201「なるほど、部屋のランクが上がったから、それにあわせようとして、自然と必要ないものがはっきりわかるようになったってことでしょうな!」)p201「自己肯定感によるパワーって、なんかよくわからない物質が脳から出てる気がするよね。」(中略)p203、10年後、自分がどうなっているかはわからない。30年後なんてどうなってるかもっとわからないものだ。けれど、どんなに石橋を叩いても避けられない不幸はあるし、想像力にも限界がある。(中略)それよりは、この1か月、1年、3年、5年を気持ちよくいきることが、のち10年、20年に繋がるんじゃないかと。」いや~、どうせ残り少ないから、と変化を渋る私の母に娘が言った言葉そのものですよ。娘も説得してました。「残り少ないならそれまで快適に過ごせば?」と。そして今おばあちゃんは孫に大感謝しています。


「おばさん未満」 酒井順子 集英社 ¥1300+税
の本の一刷は2008年なのでお母さんが元気でパワフルに暮らしを楽しんでる様子が伺われ、別の本で急逝された旨書いてるのでつくづく人の一生の不条理を思う。「負け犬・・・」出版当時は38歳、筆者は42歳の今をつづる。42歳独身は未満なんでしょうね、自分の意識としては。


「魔法がとけたあとも」 奥田亜希子 双葉社 ¥1400+税
文庫本と違って図書館に並べられる本は帯も取られているので内容を伝える情報がないこともありなかなか馴染みのない作者の本は手に取らない。こんな時新刊コーナーで借りようと手にするのはやはり装丁(表紙)とタイトル。本書も久しぶりの双葉社であり、にぎやかな表紙に惹かれて借り。タイトルの意味はすべての短編ラストに真実というオチがつくこと。それぞれの作品の主人公が事件というより対人的悩みで展開され癒されていく。素敵な作品は「花入りのアンバー」、いいね、と思うのは「彼方のアイドル」かな。


「奥様はクレイジーフルーツ」 柚木麻子 文芸春秋 ¥1300+税
「ランチのアッコちゃん」「ナイルパーチの女子会」で女子の悩みを身近に描いて秀逸な柚木さんがセックスレスで欲求不満若妻の日常を果物を小道具に描く短編集。タイトルが可愛いが考えてみると昔々「狂った果実」という若者小説ありました。の女子版ですね。p148に私もはまって続け読みしてる酒井順子さんのエッセイが出てたり、生まれ変わった東京駅が出てたり、と時代にマッチ。


「夜のリフレーン」 皆川博子 角川書店 ¥1900+税
書評おすすめを見て借り。初めての作家さんだが1930年生まれとありびっくり!90歳の母と同じころ生まれなのにこの筆力。最新では2018,5の作品が掲載されている久しぶりに味わうショートショート集。最初年齢を知らずに読んでいたころは文体がいかにもJAPAN、というところが今の人には新鮮なのかな、と思っていた。どの作品も甲乙つけがたい濃密な世界をぎゅぎゅっと描いている。ラストで中川多里さんの人形の写真に寄せたショートショートががあるが、その写真が人形作家になった教え子の作品を思い出す。


「愛の保存法」 平安寿子 光文社 ¥495+税
旅の車中で読みましょう、と借り。なのにこの面白さは¥495なんて安すぎ!珍しく男性を軸にした短編集、と思って読んだらあとがきでご本人も「全員がダメ男だ。そのダメぶりのバリエーションをお楽しみいただきたい。」と書いている。しかも全作品モデルがいるとのこと。最も共感を覚えたのはアタック中の彼女が親の死に瀕して若い僧侶に傾いていくのに焦りながらp123『「わたし、もともと弱いのよ。(後略)」そう言われて、やっとわかった。言ってくれたらなんでも手伝うよ、というのはたとえば溺れかけてる人に「救命胴衣も浮き輪もオールもあるよ。要るものがあったら、そう言って」と呼びかけてるようなものだ。ところが、あの小坊主はただそこに居合わせたというだけで、生ける救命胴衣と化したのだ。』10年以上も昔の本だけど流行の家事メン、育メンに気付いてほしいところだ。


「優しい食卓」 瀬尾まいこ 双葉社 ¥1200+税
だれか一人が加わることで変わっていく家族、不倫カップル、同棲カップルの3編。ちょうど孫が8歳になるのでタイムラグで佐菜ちゃんが可愛かった。最初の「優しい音楽」も男女を巡る、という意味では他の2編と同じなのだがそれぞれもし平さんが書くなら別の展開に持って行くだろうな、と想像しながら比べて味わえる愉しさ。瀬尾さんの人気と実力が納得できる一冊。


「リネンとかごとヒヤシンス」 雅姫 集英社 ¥1600+税
モデル、ショップオーナーとして自然でおしゃれなライフスタイルがLEEで人気の雅姫さんの初のエッセイ集。秋田出身とは知っていたけど壇蜜さんと同じ横手美人だったんですねー。おしゃれな雑貨の写真に混じってp91では横手名物小松屋のアイスドリアンの写真や訪れたギャラリー有(この字にはこがまえが正しい店名なのですが入力できずすみません)の写真が合って嬉しい。


「火星に住むつもりかい?」 伊坂幸太郎 光文社 ¥1600+税
満を持しての、というより借りたい本がずっとないのでついに行ってしまいました、伊坂コーナー。久しぶりの文体についていけるかな?と思ったが、なんと!仙台が舞台の二重構造の「ホールデンスランバー」。そう、ここでも主役の久慈君は逃げ延びるのである。しかも死んだかと思っていた真壁氏は・・・?読んでのお楽しみ。読後ほっとするものの救いのない薄い絶望感を感じてしまうのは震災を経験したからか?


「さらさら流る」 柚木麻子 双葉社 ¥1400+税
「ランチのアッコちゃん」のイメージで読んだが、マザコン男のリベンジポルノの被害者のヒロインが再生してゆく様子を描いている。アッコちゃんにもあることだが女友達の力の大きさが頼もしい。青学が二人の舞台かな?と想像できる大学生の二人がヒロインの家まで歩いて帰るところからスタート。暗渠や緑道を辿る二人の道行きは一瞬恩田陸さんの「夜ピク」を思わせるが別れた途端に全然違ったシーンになるからね。


「風に顔を上げて」 平安寿子 角川書店 ¥1400+税
探している平さんの本がなかなか見つからない!けれど娘の家で読むなら彼女も好きな平さんを一冊でも持って行こう、と思いながら読んでなかったものを借り。25歳の風美ちゃんはフリーター。短編の最初の方はおなじみの独身女子達トークで仕事、家庭と生きる迷いのあれこれが描かれていくが次第にお気楽な暮らしに逆風が吹き始め・・・捨てたはずの家族のしがらみがどろどろとラストまでひっぱる。私も子供の頃母に言われて一番嫌だった言葉p220「一人で大きくなったような顔して!」これはやっぱりNGワードだよなー、と思いつつ、風美ちゃんのママが孤立してゆくのも納得、と思いつつ、新しい一歩を踏み出そうとする風美ちゃん幹君姉弟に、人の成長はやはり親子関係をきちんと卒業することなのねー、と実感。それが出来ないから世の中の親子の事件が後を絶たないんだろうな。


「あまからカルテット」 柚木麻子 文春文庫 ¥560+税
平さんを貸したら娘から打ち返されたのは柚木さん。もちろん母娘で柚木さんファンでもあるから喜んでお借りする。しかも今ドはまりであまりにもたくさんエッセイ集を借りまくり、ついには日記にアップもしなくなった酒井順子さんのあとがきがすごく良くてそちらにも注目。中高一貫の私立女子髙仲間の4人組の日常を描いていてそれがなぜ私が好きなのかは酒井さんが説明してくれている。そしてここでの4人組はアラサー、これからの人生の方が色々あることを酒井さんが鋭く指摘していてこの本を友人たちに感謝と共にプレゼントしたいほど。なぜなら私たちは「その後」を生きてきたから。


「砂漠」 伊坂幸太郎 実業之日本社 ¥1524+税
東北大学が舞台の学生の入学から卒業までの4年間を描く。時々彼らの口に登る「砂漠」とはこれから旅立つ社会を指している。ということは大学時代はオアシスということなんでしょうね。個性豊かなメンバーだがその中にあって西嶋君は学力の高い人間の間でないと生きにくいだろうな、とは思う。そしてさすがの伊坂君、キチンとラスト近くで希望に満ちた言葉を記す。p408卒業式での学長の祝辞。『学生時代を思い出して、懐かしがるのは構わないが、あの時は良かったな、オアシスだったな、と逃げるようなことは絶対に考えるな。そういう人生を送るなよ。』と強く言い切った。そして最後にこう言った。『人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである』


「科学者が解く『老人』のウソ」 武田邦彦 産経新聞社 ¥1300+税
水曜九時、さんまさんの「ホンマでっかTV」で洒脱なコメントを連発、他の男性出演者さん共々番組を沸かせて下さる先生の生き方論。老人とひとくくりにせず、50歳を区切りに生き方の仕切り直しをすれば良い、という説には大いに共感。考え方で生き方も変わるよねー、と思ってる私に論理的に説明してくれて◎


「秋山善吉工務店」 中山七里 光文社 ¥1500+税
「嗤う淑女」借りようとを思ったがパンチある教師が朝日新聞で紹介されていたので中山さんらしからぬ作風かと思って借り。ミステリーとは言うものの刑事がしつこく丹念に、という構成ではなく、事件後の子どもの成長譚にもなってるから読みやすいが、善吉さん、哀しすぎるよ、というラストにほろり。


「私の遺言」 佐藤愛子 新潮社 ¥1600+税
母に「九十歳なにがめでたい!」を借りようと思っているが中々出てこずその間何冊か佐藤さんの本を借りてお茶を濁しているが、珍しく私も読む気になったのは「遺言」というタイトルだったから。しかし遺言という割には2001年の作品なので佐藤さん80歳前後の思いであろう。しかもメッセージ的なところは強くなく、突然霊体質になった自分と娘の原因が発作的に建ててしまった北海道の別荘(1975年)であったこと、そこでの怪現象を解決すべく協力してくれた美輪明宏さん、大西弘泰氏、根曽誠治氏、中川昌蔵氏、鶴田医師、山口順昭さん、藤村久和氏、そして今やその世界のビッグネームとなった江原啓之氏らが関わっている。しかし21世紀を迎えるにあたり阪神淡路大震災、サリン事件、酒鬼薔薇事件から始まる数々の少年事件と大きく日本が変わって来ていることを振り返るらせてくれる一冊


「ぱくり ぱくられし」 木皿泉 紀伊国屋書店 ¥1400+税
新刊コーナーで8月14日に借り。なのに読み終わって後ろを見てびっくり!第一刷発行日は8月23日で読了は22日ですし。初のドラマが「すいか」だったのね。思えばその後の「野ブタ、をプロデュース」では山P、「Q10」は健君だったのでもちろん見てたし「昨日のカレー、明日のパン」では仲里依沙ちゃんのほっこりした演技も楽しんだし、NHKでの木皿さんの特集番組でも勉強させてもらったのでこの本はすっきり読めました。ご夫婦の対話集もだがその阿tのエッセイ集「嘘のない青空」でも日常から膨らむ自己イメージが秀逸。図書館があって感謝、と思う一冊。


「ふちなしの鏡」 辻村深月 角川書店 ¥1500+税
分かってるんです「水底フェスタ」を借りて読んだ時から辻村さんの作品が面白いこと。でもあの厚さの「かがみの孤城」を読む決断ができず、かがみつながりでこの本を借りてみました。そしてもちろん満足。不気味一番は「踊り場の花子」都市伝説の「トイレの花子さん」を変化させた作品だがストーリーの進め方がうますぎ!とミステリー化ほらー化の線上を味わえる辻村作品だが、読後胸キュンはラストの「八月の天変地異」今どきアニメの様な作品。あ、こちらが先か。

6月7日(金)

「崖っぷちパラダイス」 谷口桂子 小学館 ¥2000+税
自分には初めての作家さんだが、新着コーナーでひときわ目立つ赤いパンプスの表紙が素敵で借り。お値段もびっくりの450ページ近い分量で『約40代』(アラフォーとは言わずに終始この表現)女性4人組の恋と友情を描く。全員が雑誌編集社で知り合ったライター、コーディネーター、カメラマン、スタイリストというフリーのカタカナ職業であるところがドラマ。実人生を振り返っても30代まではシングルライフを楽しめ、親も結婚をうるさく言うけど、40代超えると親は70代、娘を手元に置きたがるから気をつけろ、日本の30代女子!出産期限も迫って来て人生にあせり始める4人達。落ち込む度に運を掴む力をグリップにたとえ、「自分たちはグリップが弱い」と表現するのはうまい!p132でルミが言う。「私たち自由業は、ポジティブシンキングじゃないと、やっていけないの。自分で自分を誉めてあげなくて、誰が誉めてくれるの?自分にないものを数えたらつらくなるだけよ。」うわー、昨日ストレッチの先生が「90歳になってもまだ体は応えてくれる。できなくなったことを嘆かないで」と言った言葉とビンゴ!


「ギフト」 原田マハ イーストプレス ¥1300+税
厚さと大きさが借り続けている酒井順子さんのエッセイ集と同じなので車中用に借り。上野行き40分では読み終わらなかったがちょうどよい内容のショートショート。女性が主人公でどれもハッピーエンドでイラストとぴったりな原田さんらしい淡い明るさを含んだ作品


「言い訳だらけの人生」 平安寿子 光文社 ¥1500+税
初めて読む平さんのメンズ主人公の作品。幼馴染のガンダム好き3人組の男の子と山の上の一軒家にひっそりと棲息?する孤独な老人の庭を巡る短くも濃密な「スタンド・バイ・ミー」の世界。かつての少年達はガンダムの世界を心の支えにそれぞれの事情を抱えた少年期を生き延び、30年ぶりくらいに再会を果たす。その一人、自己破産して今は実家に戻り親と住む和彦は子供時代を振り返る。p96~98『和彦は、母親が嫌いだ(中略)「あなたのために」が、母の口癖だった。(中略)だが、思い返すだに母のありようは、自分のためにこうであってほしい子供像を和彦に押し付けた、としか受け取れない。』(中略)『母は怖かった。逆らえなかった。「あなたのため」と言いながら、和彦の希望を知ろうとしなかった。』そんな母は今や認知症。ってまさに今の私。このん文を読んで大いに共感しつつ、現実をあきらめながらも、でも子供の時間は巻き戻せない、と心に刻む。p178.3人の中では年下で金魚のフン的存在の達也も老人の死に際して集まって思う。『付き合う時間の長さと関係の深さは関係ないんだなぁ。』還暦まで生きてるとこの言葉が実感できる人間関係はいくつかあるものだろう。p200、p226で更に達也は思う。『なぜ子供向けのファンタジーが揃って、親のいない世界を描くのか。もしかしたら、子供が育つのに親は要らないんじゃないか。親子の絆がどうこう言うのは、ただの思い込みなんじゃないか。』怪我をした達也を前に修司と和彦の親が謝罪する姿を前に『親がいたら、子供はいつまでも子供のままだ。親のいないところで、子供は強くなりたいのだ。親ではなく仲間に、一人前と認められたいのだ。』虐待されて死ぬまでも親といる子供、高齢化のためいつまでも喪主をやることのない大人、考えさせられることばかり。


「おやつが好き」 坂木司 文芸春秋 ¥1250+税
ご存知「和菓子のアン」の作者が描く様々なおやつへの愛。おかげで知識アップで感謝。意外と老舗が出てくるので歴史ってこういうことなのね、と納得。嬉しいのは地方のお土産でお好きなものとして榮太郎の『さなづら』を挙げてくれているところ(p130)実は私も好きですね。


「昔は、よかった?」 酒井順子 講談社 ¥1400+税
こちらも週刊現代に掲載されていたエッセイのシリーズ。ただし今回は東日本大震災をはさんだ2010、4~2011、5月までのエッセイなので当然震災への思いも描かれているが、大都市を支えるためにある地方の原発の構図も言及されており、その課題はいまに続いている。たまたまタイトルと合ってしまったがp111今は亡き海老蔵の奥様麻央ちゃんの新妻ぶりや、p81引退してしまった安室ちゃんと現役をはってる聖子ちゃんとのコンサートでの違いが予言のように描かれている。今回新たに目を見張ってしまったのはp230九州新幹線のお話。そうなの、ななつぼし、水戸岡さんで注目を浴びたJR九州、いつの間にか開業、と思ったが、そうか開業が震災の次の日だったから秋田では午前中停電だったりして気が付かなかったのね。エッセイをこれほどリアルタイムで味わい、変化を感じたことはないエッセイ集となった。


「そんなに、変わった?」 酒井順子 講談社 ¥1200+税
前述の「昔は、よかった?」に続き、週刊現代に掲載されたエッセイの単行化。2012、5~2013、4月分まで。この本で8冊目とのこと。ご本人言う通り最初と最後のエッセイがキョンキョンこと小泉今日子さんネタでラストは朝ドラ「あまちゃん」への期待感。そこでキョンキョンの娘時代を演じた有村架純ちゃんが大ブレイクするから芸能界は生き馬の目を抜く世界ね、やっぱ。ご自分の代表作「負け犬の遠吠え」から10年を経て自分の人生を生きてれば良かった独身30代が、親の存在、自分の老後も視野に入ってくる現状と歌舞伎座リニューアル等震災後の日本の空気を感じさせてくれる一冊。


「日本人にとって聖地とは何か」 内田樹 釈徹宗 茂木健一郎 高島幸次 植島啓司 東京書籍 ¥1800+税
ヨガの先生が正月明けに下さる歯ブラシに「調身 調息 調心」と書いてくれて、身体を調えてこそ心が調う、とおっしゃってたが、p87で武道家でもある内田さんが同じ言葉を述べて、『自分の身体を調えるとセンサーの感度が上がる』と言っている。新刊で借りてみたけど縁があったかな?と自分の感度に満足(笑)ブームとなった聖地巡礼に関する考察、対談集。p65日本の聖地は活断層や構造線、水脈の上にあることが多い、という指摘、p222、中央構造線の上に聖地、という指摘はある意味大地のパワーを封印しているのか、と思わせられる。又、パブリックな聖地、個人の思い出としての聖地や海洋民族の民としての信仰への言及も興味深かった。聖なる地と俗との結びつきの結果門前町や参道の店ができる意味、紀伊半島近辺に日本の聖地が集中している、というので元気なうちに行くぞ~!とますます旅行熱が上昇。


「おじさんとおばさん」 平安寿子 朝日新聞出版 ¥1500+税
最近では高齢化する親のことを書いたりしている平さんだが、やはり彼女の真骨頂、というより人生そのもののドラマは20代~30代独身働く女子の日常だと思う。タイトル通り還暦間近男女6人のラブアゲイン。p96~で「大台」についての考察。たしかに30代、40代それぞれの区切りに「大台」とつけられるが、若さと老化のバランスでなく、『限界が見えてくる』『時間を浪費するわけにはいかない』と思うというところでは「大台」は50代、という文章には共感。


「泣いたの、バレた?」 酒井順子 講談社 ¥1300+税
シリーズで読み始め2013、5~2014、5月分までの掲載分。シリーズで味わうと時事ネタもだが筆者也周囲も都市を経てゆくのでそれも身近に感じられる。例えばp97の「親同伴の同窓会」タイトルを見ただけでは30代~40代ママが子供と開催するのかと思ったのは母親だった私の思い違いで、40代の酒井さんが親を連れて集まる、という企画だった。確かに娘の結婚式準備で行った都内式場ではちょうど○○女子髙同窓会が開かれており、足元覚束ない高齢ご婦人が娘か嫁が付き添って会場に入る姿を何組も目撃。ありだね~、と共感。p128「葉っぱはいいなぁ・・・」では当時私も見てしまいましたNHKスペシャル『認知症800万人時代』その後酒井さんは京都に行き色付いて散りゆく紅葉を見ながら『葉っぱの場合は、新緑の時も「きれいねぇ』と愛でられるけれど、死の直前の紅葉はさらに絶賛されます。紅葉した葉っぱは、いわば葉っぱの人生における高齢者であるわけですが、その時期に最もちやほやされるって、人間ではあり得ないわなぁ(後略)』共感ですなー


「この女」 森絵都 筑摩書房 ¥1500+税
ゴールデンウイークに初めて訪れた大混雑の天王寺動物園。この周辺を舞台に育った男女の奇妙な物語。しかも時代設定は1995年。歴史を知ってる者にとってはさまざまな予感を含みながら正月が過ぎてゆく。したたかなヒロインの回顧録を書け、という依頼を受けた礼司。そして彼女を知っていくにつれ、p189『この女は壊れているけれど空っぽではない。乱れているけど汚れてはいない。』と表現する。そしてp194何があっても起き上がる「回復力」にも圧倒される。そしてラスト近くで明かされる礼司の秘密。破壊の予感を含みながらも未来を感じる力強い小説。

5月6日(月)

「終わりなき夜に生まれつく」 恩田陸 文芸春秋 ¥1500+税
イロという超能力、途鎖という地域がキーワードの短編集の恩田ワールドということでまたしても現れた既読感。確認したら単行本で購入していた2012年の「夜の底は柔らかな幻」上下の壮大な物語からつながっていた。本作は2013~2016年にかけて『オール読物』に初出。紛争地での国際医療ボランティアの医師みつきさんのストーリーから同僚の軍君へと続くとそこからは彼につながる人へと物語が深まり、ラストでは続きを予感させる面白物語。初期の「MAZE」を想起させる。


「ぴりから 私の福岡物語」 堀江貴文 田中里奈 鈴木おさむ 坪田信貴 小林麻耶 佐々木圭一 幻冬舎 ¥1300+税
新刊で借り、って何て嬉しい状況。前回の日記にアップした森見さんの「美女と竹林のアンソロジー」も9人の作家さんによる競作だが、奇しくも本作も6人の短編集。しかも一作目の堀江さんの提案で次の作者さんは前作とどこかでリンクする仕掛けにしている。モデルの田中さんは全くの小説仕立てだが、小林さんは設定がアナウンサーだったり、佐々木さんは「伝え方のレシピ」を付けた小説仕立てだったりとそれそれの作品を楽しめてついでにラストでちょこっと福岡神社紹介もあって面白い一冊。福岡では人が訪れることを「来福」というともあり(p237)いいお言葉。


「スイート・ホーム」 原田マハ ポプラ社 ¥1500
ん?「和菓子のアン」?平安寿子さん?と思わせる作風の原田さん短編ホームシリーズ。住んでる街と洋菓子店をそれぞれの登場人物が慈しみ、恋や家族関係をゆっくりと紡いでゆく。「幸せの形」を温かく描いておすすめの一冊。


「大島弓子にあこがれて」 福田里香 藤本由香里 やまだないと ブックマン社 ¥1600+税
高校の頃大島さんも大好きな漫画家の一人だった。柔らかいロマンチックな絵だけど内容は結構人間存在に関わるような重さを覗かせていた。そんな私同様このお三方も大島さん大好きで私以上に人生を変える程の出会いをしてしまったのねー、と同志に思える熱い一冊。図書館ならでは。


「消滅」上下 恩田陸 幻冬舎文庫 ¥600+税
いつものように読み終わるのが惜しい本作ではついにヒューマノイドが登場!空港という閉鎖空間に集められた男女、子供、犬の誰がテロリストなのか?萩尾望都さんの『11人いる!』を思い出しつつゆっくりと味わう。もしかして男児が主人公の別バージョンで続編出来そう。


「ロマンシエ」 原田マハ 小学館 ¥1500+税
すぐテレビ化でもされそうな」「本日はお日柄も良く」の様なテンポの良い読後爽やかな作品。今までは解が=マハさんだったがついにリトグラフの世界へ私たちをいざなう。しかも舞台はパリ!夢のまた夢だなー。「君が叫んだその場所こそがほんとの世界の真ん中なのだ」もアグレッシブ。


「ふたりからひとり」 つばた英子・つばたしゅういち 自然食通信社 ¥1800+税
ご自分が最初に就職した設計事務所の集大成ともいえるレーモンドハウスに住む二人の暮らしぶりや知rを写真と共に紹介する一冊。二人の支えあう容姿が詳細に温かく聞き書きで描かれかなりの文章量なのだが自分と近い考え方をがいているからかとても読みやすく、発行後一年たたずに10刷と言う人気の程がうかがえる。つばた氏が弱っていく経過も描かれているが午前の作業を終えたところで貧血を起こして横になって永眠、という最期もしゅういちさんらしい。p247『日常のことって、なおざりになりがちですけどそこに心を込めることが実はとtrも大事なことだと思っていて。毎日は同じことのくり返しで地味ですよ。だけど暮らしって、そういうものです。』という言葉も響く。ついでに「ひでこさんのたからもの」主婦と生活社¥1400+税も読み。この時点でもうすぐ90歳、やはり家族の支えはあるのよね。


「女ともだち」 角田光代・井上荒野・栗田有起・唯野未歩子・川上弘美 小学館 ¥1400+税
図書館に行くと必ずチェックする恩田陸さんコーナー。になぜかあったので縁を感じて借り。読みやすい短編集。全ての作品のヒロインが派遣社員の立場で自分の立ち位置を自己分析しながら友人、職場を考えていく等身大小説。


「人生の使い方」 平安寿子 NHK出版 ¥?
p87『私は、向上心というものがない。(中略)ゆるいのが一番だ。ピリピリせず、頑張らず、楽にニコニコ暮らしていきたいだけだ。だけど、楽にニコニコというのが、けっこう難しい。』という主人公佳織のキャラは平さんの作品全般に共通する人物像。佳織さんちは高2の娘、54歳夫という我が家より若い設定だが、趣味を楽しむ妻が、夫に定年後を充実できる趣味を探したら、と提案して二人で色々探したり、体験したりというシーンは定年前後のどのお宅にも当てはまるのでは?しかも、さぁこれから人生楽しもう、とばかりの先輩格の義兄を襲う病。平均寿命は100歳超え、と言われるが人生を楽しめるリミットも伸びるとは言い難いかも。まさに全国民に突き付けられる問い。娘たちの頃は年金支給だってすごーく高齢になりそうだしさ。百人百様の老後ではあるが、タイトルにある「使い方」という点は老後も自らの姿勢次第で「うまく使う」ことができるかも、と考えさせられる一冊。自分の為に使える人生って本当はどのくらいあるんだろう?これまた置かれた人によってすごい違いがあるわね。家族のいる人、親を見る人他。娘の受験のために趣味を諦める佳織、小遣いを下げられた洋介のところに義姉の初美がやってくる。p128『主婦にとってはね、無心になれる時間こそが酸素ボンベなの。』と力説し、ふさぎ込む佳織の為に夫からさりげなく再開するよう勧めたら、と説得に来るシーンには快哉!そうなの、主婦は一人で戦ってるのよ、ねぎらってほしいの、共感してほしいの、と声が上がりそう。これだから平さんはやめられない。そしてフラを再開した佳織が今度は義兄の介護に沈み込む義姉に言う。p166『何か重いものを背負ったときこそ、身体を使ってストレスを発散させるべきなの。ストレスってね、頭じゃなく身体から抜けていくのよ。多分汗と一緒にね。』そうそう、ヨガの先生も言ってました。「調身、調心、調息」って。先に身体、だったわ。身体が整うとタフになれる。いい本に出合いました。


「50歳からのお楽しみ生活」 中山庸子 海竜社 ¥1400+税
表紙に刺しゅう糸のイラストが描かれていてふと手にした一冊。西村玲子さんと共に楽しんでいる作者さんのシリーズ。お楽しみ生活が7章に分かれて写真やイラスト、エッセイで書かれている。お楽しみ第一章のお弁当の最初に秋田曲げわっぱの弁当箱が出てくるのも嬉しい。その2のおしゃれの章の黒のワンピも大人、とうっとりしながらマッハ読み。巻頭で中山さんが50歳を超えてこれからの自分に与えられるであろうじかにゃ体力を考え『100人からの「いいね!」を求めて無理する代わりに、自分で100回「いいね!」すればいいじゃない?」は至言。


「盤上のアルファ」 塩田武士 講談社 ¥1500+税
最近ドラマ化もされた話題作。40代のドラマなのかと思いきや実は主人公の二人は30代前半でうちの子供達くらいの年齢か、と思いながら読み。苦労が彼らを老成させているのか?アルファの意味が分かるとさらに読後の爽やかさが際立ち、満票で小説現代長編新人賞受賞も頷ける完成度。


「産まなくても、産めなくても」 甘糟りり子 講談社 ¥1400+税
第一話の「掌から時はこぼれて」を読んだら、あれ?まさかの2度借り?と思うデジャブ感。いや、以前借りたのは「産む、産まない、産めない」の方で間違いないよな?と疑心暗鬼になりながら読み進んだが、大丈夫。以前の作品は「産む」ことも選択肢にあったが今回は「子供の無い」人生を選択するかに揺れる女性たちの短編集。今の女子達は医学も情報も昔の比ではない分プレッシャーも大きいかもな、と思いつつ読了。ふた月続いて掲載された「エバーフレッシュ」が読み応えあったのと、今や目前に迫った2020年以降のことを書き下ろした「マタニティコントロール」が面白かった。タイムリーに海外の体外受精児の父親(精子)が実は担当医、しかも49人も!というニュースもあり、医学倫理が懸念される領域でもあるなー、と思いつつ読了。


「忘れる女、忘れられる女」 酒井順子 講談社 ¥1300+税
酒井さんの別のおすすめ本を探していたら」どの本も面白そうなのでまずはこちらを借り。2017年の発行なので政治ネタ、芸能ネタ他どれもタイムリーな話題で楽しめる一冊。表紙も持ち歩きたいほど素敵なのでまた他のも借りてます。


「でーれーガールズ」 原田マハ 祥伝社 ¥1400+税
これも原田さんの別の本を探し中に借り。「でーれー」というタイトル通り岡山の女子高生のスクールライフを描いた作品。話の流れがいかにも小説っぽい持って行き方だなー、と思いながら読んで行ったが、思いがけぬラストにやっぱりうるうるできる作品。


「フランス人は10着しか服を持たない ファイナルレッスン 『凛とした魅力』がすべてを変える」 ジェニファー・L・スコット 大和書房 ¥1400+税
話題になった「フランス人は・・・」の三作目。お手本になるフランスマダムを具体例にしながら日本語で言う「きちんと」暮らすことの大切さを訴えた共感できる一冊。ノートルダムが焼失したのは残念だけど一度行きたやフランスに。積み立てはしてるんだけどな・・・

3月7日(木)

「長いお別れ」 中島京子 文芸春秋 ¥1550+税
アメリカでは認知症のことを「長いお別れ=ロンググッドバイ」と言うらしい(p261)タイトル通り夫、父、祖父であった東昇平氏と家族との長いお別れを描いていて介護職をやってた身にはドキュメントのように経過が実感できて。妻はすごく大変だが子供の方は親孝行させていただけるんだ、と見方を変えれば少しは優しくできるかな?


「幸せ嫌い」 平安寿子 集英社 ¥1500+税
自称恋愛体質、顔合わせまで進んだ婚約者がいつつ、ひとめぼれで恋に落ち、結局一気にどちらも、ついでに仕事も失った麻美ちゃんが再就職した先は初めて会った遠い親戚が経営する結婚相談所。そこで担当する顧客達の縁結びと同時進行でまたまた一目ぼれした緑川君との進展を軽妙なやりとりで展開。ハッピーエンドの予感するしゃれた一冊。またまた今年の押し本。


「スカラムーシュ・ムーン」 海堂尊 新潮社 ¥1600+税
2段組だけどすいすいと読めたのは馴染みの海堂作品だからか?単行本だからか?天城雪彦亡き後20年を経て一瞬極北市の世羅、速水も登場してますます時の流れを味わえる。東城大でのシリーズ、妊娠にまつわるシリーズ、時間に抗うモルフェウスシリーズを経てスカラムーシュとあだ名される彦根が政治にまで自分の信念を広げてゆく。「ナニワモンスター」に続きパンデミックスキャンダルとワクチン、浪速市が舞台になり、行政、警察権力、検察、防疫登場人物の多かったこと!そして当然彦根のその後、続きを期待できる一冊なのであった。


「隠された刻」 坂東まさ子 新潮社 ¥1800+税
東日本大震災後に書かれ、原発事故の臭いを漂わせながら、4つの時代をそれぞれ独立して描きつつ、南十字星の見えるイリアキというリゾート地で財宝を巡りシバとヒタの神話はどのように誕生したのかまで探る海外版古事記とも言っていい綿密な構成に感心。書かれたのが2013年だからまだフクシマがリアルで、p95「人がいなくなっても、世界は終わらないですよ」(中略)「恐竜が滅びても、世界は終わらなかった。人がいなくなった場所を世界の終わりだというのは、人間中心の考え方じゃないですか」と言う汰久也に対し、「そりゃ、そうですね。人類なんか消滅してもいいかもしれない。だけど、地球にも他の生命体にも害を及ぼす放射性物質を置き土産にしちゃいけないですよね。」と言う北添の言葉が重い。「隠された刻」とは何か。p344とラストで「明日は、掌の中にある。」が希望だ。


「レッツゴー、ばーさん!」 平安寿子 筑摩書房 ¥1400+税
なんと今の自分にジャストフィットの作品。登場人物の女子達?もこれは私、これは・・・と現実味を帯びる程。還暦を迎えたシングル女子文子さんの一年を軽やかに描く。自分の親世代を反面教師に捉えて自らの今後を考えるところにも共感。平さんもご自分の年齢柄からか最近介護や自らの老いを描くことが増えてますね。奇しくも文子さんが筋肉の存在と大切さに気付いていくところもますます共感。そうよ、その通り!と心で叫びつつ、p160「生まれるときと死ぬときは、選べないのだ。けれど老い方は選べる。」はまたしても今年の金言の一つ!


「八月は冷たい城」 恩田陸 講談社
秋田では文庫本ばかりチェックしてたから図書館でこの本を見つけて借りてびっくり!面白かった!最初は萩尾望都さんの「11人いる!」のような展開、やがて古事記の甦り神話のようで恩田さんの得意手法がふんだん。そして蘇芳ちゃんが出てきた時点であれあれ?この子他の作品にも出てたよな?関連?とどきどきしながら2度読み。「雪月花黙示録」だったかな?あぁ、また図書館に行かなくちゃ。


「異邦人」 原田マハ PHP
孫誕生会大坂往復で読みました。東日本大震災も「隠された刻」同様小説の題材として使われるようになっている。この作品の初出は2012、5月。比較的早く話題にしてる方だと思う。しかも冒頭で主人公が京都駅に降りたのは2011、4月。私、母、娘と娘結婚前の記念旅行を予定していたのはその年の6月!でも私たちも決行した、だって聴竹居予約してたんだもの。しばらくはこまちも止まってて実家往復も飛行機、おそらくやっとこまちで行けた頃。あの時の京都の空気が一気に立ち上がる。観光タクシーの運転手さんが震災直後はペットボトルの水を後ろトランク一杯に買いだめをした老人を乗せた話もしてくれてたっけ。予約制なので訪れた聴竹居でのお客さんは他に女性一人。4人でゆっくり解説してもらいながら見終わってオーナーさんが「この時期に(震災地の)秋田と盛岡から見学者が来るとは」と驚いてたこと。しかもいきなりp23母と京都に行くときは必ず立ち寄る智積院の場面もあって(ここでは良くは描かれてないけど)マハさんの世界にどっぷり。そして主人公の妻はこの時妊娠している。娘も入籍、旅行後妊娠し、という共通点。しかもその時生まれた孫の誕生会に行くところだったし。それにしても原田さん、すごいよ。妊娠初期の菜穂ちゃんにp35「私の中に別の人間の目があって、脳があって、心臓があるんでしょう。てことは私はいま、脳をふたつ、心臓をふたつ、持ってるわけでしょう。目をよっつ・・・」(中略)「私自身が、別の生き物になってしまったみたいな気がする。」と言わせるんだもの。だれも妊娠中にこんなこと考えないよな。31歳にして目利き、100万で絵を購入、とか京都の名家とのおつきあいなどハイスペックお嬢様の熱量に圧倒されつつ一気読み。


「錆びた太陽」 恩田陸 朝日新聞出版 ¥1700+税
直木賞受賞後長編第一作。恩田作品のラストは雨の後の晴れ間を思わせる明るさが好きだ。本作も実は2011原発事故後の未来のフクシマ,ニホンをユニークな設定で描いた3日間の物語。膨大な記憶を持つことのできるアンドロイドと訳あり休職中の公務員女子との混乱を描く。シリアスで重くなるはずの未来をコミカルにゾンビ?まで登場させて、長編なのに一気読み。


「産む、産まない、産めない」 甘粕リリ子 講談社 \1500+税
非常にデリケートででも日常的な短編集。これは女性誌初出ではないな、と思ったら小説「現代」だったので納得。最終章に来て、あれ、このヒロイン前にも出てたかな?と思ったら最初の章のヒロイン桜子さんが妊娠、のその後じゃないか。しかも友人重美さんなんかもっと大変なことになって再登場だし。「産む性」であることを背負わされる女性の悩みはそれぞれ尽きないことを実感。


「七月に流れる花」 恩田陸 講談社
「八月・・・」同様もちろん図書館で借りた『かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランドシリーズ30巻』が恩田さんで完結の2冊目なのだが値段が分からず。30巻でいくら、なのかしら?あぁ、読み終わっちゃう!ともったいながりながら読了。もちろんここでも蘇芳ちゃん登場。こちらを先に読んでれば「夏の人」の登場にも違った気持になったのに。城でのパターンは分かってたけど、さすが恩田さん、しっかり者の蘇芳ちゃんがリードしつつもミチルちゃんがきちんと狂言回しの役を演じてくれて上質のミステリー。


「美女と竹林のアンソロジー」 森見登美彦さんリクエストの9人 光文社 ¥1600+税
久しぶりに図書館で新刊!である。しかもファンタジーノベルの作家さん達による短編競作。2018初出。一つのテーマに沿ってストーリーを展開するため作家さんによってナイスな落としどころ!うわー、じわじわと怖い・・・等々個性があふれているがもちろん収拾つかなかったんだろうな、と思わせるぐるぐる巡りの難解な作品もある。でも自分ならどう描くかな、と思いつつ楽しめる一冊。

1月25日(金)

今年もよろしくお願いします。今年は正月秋田に戻らず長く埼玉にいました。今日戻って来ましたがそれまで新しくできた図書館通い。単行本は読みやすいのかすごい冊数を稼ぎました。

「硝子の太陽ノワール」 誉田哲也 中央公論新社 ¥1500
娘たちが秋田を離れて私達も夫の親と祖母との同居を開始。以来図書館とは遠ざかって15年ぶりに図書館で借り。これも「ジウ」シリーズと言ってよい。そしてここで一瞬姫川玲子、東、勝俣がバッティング。本作では新たに結成されたセブンのメンバーの一人が惨殺。犯人を追ううちにかつての「新世界秩序(NWO)」がらみの事件が絡んでいく。オープニングの試験の解決も併せてハラハラのラストを読みつつ、あれ、でも陣内君達キチンと安里と花城は処分したっけ?という続編への期待が高まる。セブンに殺されたのは3人。「俺」「砂川」「江添」。「俺」が安里ならちょっと安心。それにしても同じ作品でも単行本で読むと読むスピードが上がるのは活字の大きさのせい?


「モダン」 原田マハ 文芸春秋 ¥1300
MoMAの職員を主人公にした短編集。原田さんの描写を通して建物のパワーまで感じられるので会場に立ちたい気分にさせられる。元館長の幽霊の出てくる作品があたたかい。少女と彼との交流を描いた「私の好きなマシン」も孫を持つ身には大いなる刺激。


「前向き。93歳、現役。明晰に暮らす吉沢久子の生活術」 吉沢久子 マガジンハウス ¥1300
2011年初版なので当然本書(生活研究家 阿部絢子さんが聞き手となって編集)でも「節電」より「省電」を念頭においた昔の暮らしぶりや「もの離れ」の心構えも描いている。ただ本書の93歳の吉沢さんの暮らしは再来月90歳の母の日々にそっくり!やはり長生きする人の家事力、心構えはすごいな~、と改めて「独居力」というものを考えさせられる。p20「一人暮らしは自分で自分を守っていかなければなりません。便利な生活の中で失われていく自分の能力について知っておく必要があります。多少は危険があったほうが気を抜かず真剣に取り組み、緊張感を持って暮らすことができます。それは年齢とともに失われていく自分の能力を守り抜くことにつながっていくのです。バリアフリーにしないのはそんな思いがあってのことです。」も至言。


「幸福な生活」 百田尚樹 祥伝社 ¥1500+税
ページをめくった一行に実は・・・的なオチを設けて日常の裂け目を描いた短編集。日常だからこそあるある的なささやかな恐怖を味わえる作品集。感動よりはトリックのうまさを楽しめる一冊。


「夜行」 森見登美彦 小学館 \1400
「夜は短し歩けよ乙女」で2007年山本周五郎賞を受賞して注目を集めた森見さん2016年の作品。「夜は・・・」の方は読んでないけどいやぁ、久しぶりに恩田陸さん的なファンタジーを味わえて幸せ。この本も「夜の底」をしんしんと味わえる名作。構成が巧みで「夜ピク」「黒と茶」を想起させる、と言ったら著者には失礼な意見か。10年前仲間と行った貴船の火祭りで失踪したと思っていた友人だったが失踪していたのは実は・・・?一月早々推し本に出合えた満足感の一冊


「ばあば、93歳、暮らしと料理の遺言」 鈴木登紀子 主婦と生活社 \1300
母が読むかと思って借りると結構読んでるからこんな本が続く。こちらも吉沢さんに続き93歳、母より少し先輩の暮らしを描いた読みやすいエッセイ集。もちろん私たち世代が足を止めて暮らしを見つめなおすのにも役立つ本。


「夜の光」 坂本司 新潮社 \1600
図書館様様で買おうと思っていた文庫本だったが単行本で読めて感謝。奇しくも2冊目の「夜」を扱った本。坂本さんは「和菓子のアン」を楽しく読んでいる。還暦だった去年、各世代でのクラス会、同窓会に参加したが本書の舞台である高校時代の友人たちに会ったら意外に家族関係で悩んでいたという告白があったが本書を読んで共感。そして今年、新春早々会った大学時代友人とのランチでもちろん今にも満足してるけど珠玉の時代と言えば案外何にでもなれると思えてた高校大学時代かもね、と意見が一致。森見さんの「夜行」ほど暗いミステリーではないが本書も名作「夜のピクニック」を想起させるお薦めの一冊。高校を卒業して初めて集まるラストの「それだけのこと」という一章が力強い。ブッチの章p214の「年功序列とは要するに大人のかけた保険なのだ」と花城明察。


「ハピネス」 桐野夏生 光文社 \1500
「VERY」掲載ならやっぱ設定はこうだろう、と納得のタワマンママ友物語。出産直後から夫とは別居、このまま離婚か?と思う有砂ママが過去ともきちんと向き合って自分の居場所を見つけて再生してゆく物語。どうしても初期の「OUT」を引きずって読んでしまった女たちのドラマだったがタイトル通りのラストになり満足の一冊。


「ヤマネコ・ドーム」 津島佑子 講談社 \2000
2013「群像」初出である。文庫本なら帯やあとがきが案外良い解説になってくれるが、単行本だと」自分で理解していかなければならないので答えは出るか?というところも多い。ということで本書タイトルの「ヤマネコ・ドーム」というのはどういうことかをずーっと」念頭に置いたまま読了。表紙が作者の解説によると核実験汚染物質を集めたコンクリートドームである、とのこと。太平洋戦争後の混血孤児が日本で、あるいは養子に行った国でそれぞれの人生を送り、東日本大震災が起こり新たに放射能被害が日本を覆う、という流れを描く。子ども時代に起きた友達の死を抱え続け、亡霊に惑わされる彼らの心の声を津島さんは描き続ける。2度読みするともう少し理解できるかな?


「アンと青春」 坂本司 光文社文庫 ¥660+税
「和菓子のアン」の続編。のせいか和菓子販売の」知識は増えて安定してきたアンちゃんと職場の仲間立花さんとのやり取りを軸にストーリーは進んでいく。一話解決型の謎解き短編集。ラスト付近の謎かけ和菓子の答えが21世紀美術館というのが嬉しい。まだバイトで社会に片足踏み込んだだけのアンちゃんだが、則勢力を求められる昨今の現状と比べれば、このように暖かくゆっくり成長を見守ってくれる職場なら人は追いつめられることなくゆっくり穏やかに成長できるのにな、と思う。


「さよならの扉」 平安寿子 中央公論社 \1400+税
53歳で夫が亡くなり、その直前に愛人の存在を夫本人から告白される妻。驚くべきことは妻がその愛人と友達になりたがってしまうところ。弱みがあるので毅然と断れずそれに巻き込まれてゆく愛人。もう心の整理がついてるなら妻に迷惑だってズバッと言ってやんなよ!と二人のどちらにも共感できず批判的に読んでしまったが「これだから女は!」と平さんらしい温かい視点を感じてしまうのだ。50歳直前で夫を亡くした仁恵さんも気の毒だが30代で祖父母を看取り、今は自分を棄てた父を介護(結局ラスト近くで看取ることにもなるのだが)していた志生子さん、気の毒すぎる。


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