RUMIKOの読書日記

2023年
カウンター設置 2003/02/11


この一年も残り少なくなりました。コロナ緩和で人の流れもまた大きくなってきましたが自分自身も今年は夏に京都と高野山に行けたことは自粛のご褒美だと思ってかみしめています。来年は十二支唯生き物とされる辰年。夢が膨らみます。今年一年の感謝を込めつつ来年もよろしくお願いします。

12月4日(月)

「52ヘルツのクジラたち」 町田そのこ 中公文庫 ¥740+税
「わたしの美しい庭」同様家族ではない者同士の結びつきを描いた海辺のお話。こういう内容の佳作が増えている、というのが家族の結びつきの弱体化でもあり、家族を超えた新しい絆が世の中の流れになっていくのであろう、と思いつつ読了。もうすぐ最終回ドラマ「いちばん好きな花」ともつながる。従妹より借り。家族には恵まれなかった貴瑚だが周囲に救われ、自分の歩みを一歩踏み出す様が繊細に描かれ、2021本屋大賞と言うのもうなずける。2024春の映画化に期待。貸してくれた従妹に感謝。今では珍しくなくなった朝ドラスピンオフドラマのように表紙の裏に展開される「ケンタの憂い」も面白い。


「ミチルさん、今日も上機嫌」 原田ひ香 集英社文庫 ¥640+税
バブルの時代は子育て中、東京にはいない、で殆ど恩恵も空気も味わってない自分であるが少し下の皆様のお話を承るとやはりすごい。そんなバブル時代女子が45歳(H14初版)、どうしてもその時代を引きずってまだイケる感から卒業できなかったが次第に時代と折り合いをつけて行く交流、仕事を描く一冊。従妹より借り。


「リボルバー」 原田マハ 幻冬舎文庫 ¥620+税
あれ?ゴッホってどこかで?と思ったら解説で「たゆたえども沈まず」と言う書名が。ここまでの3冊すべて従妹に大感謝の名作ばかり。マハさんならではの小説としてのゴッホとゴーギャンの歴史を描き、重層的な構造で飽きさせない長編。ゴッホの死の真相は?主人公と共にミステリーの世界に浸れる一冊。


「母親ウエスタン」 原田ひ香 光文社文庫 ¥620+税
うーん、こんな生き方もあるのねー、と小説ならではの展開に感心しつつ読了。生き方、ではなく生き抜き方、ですけど。そう、なんとか年を重ねて暮らしてゆく、ということです。時間だけじゃない、濃密な心の触れ合いで子どもの心を育む姿を味わわせてくれる。木皿泉さんがp332の解説で『これより前に作者は「東京ロンダリング」とい小説を書いている』というので今回買ってみました。読むのが楽しみ。


「やっぱり食べに行こう」 原田マハ 毎日文庫 ¥700+税
従妹から借り。こんな文庫出てたの?毎日文庫って新鮮、とまずそこからスタート。そして読み進めれば三拠点生活という超羨ましい暮らしの中でアグレッシブに「うまいもん」を楽しむマハさんに共感。これでますます旅への意欲が増すよ、の一冊。


「のっけから失礼します」 三浦しおん 集英社文庫 ¥730+税
数々の心温まる名作を生み出す三浦さんがファッション誌の定期連載エッセイを。よくこれだけ体調不良であることよ、とむしろそれに驚きつつ読み。哲学書でない限りは活動範囲の広い林真理子さんのエッセイの方が話題には富んでるな、と作品と日常の違いをつくづく感じる。


「傲慢と善良」 辻村深月 朝日文庫 ¥810+税
タイトル的にはドラマ化や映画化はないわーと思いながら読了。人生のレールを敷く、ではないが母に支配されたヒロインの婚活の顛末を描く。真美ちゃんが気付いてゆく母娘関係はかつての自分だったわー、と思いつつ、再生の起因となる東日本大震災復興ボランティアとしての暮らしからは少し落としどころを探っている感じ。タイトルの意味はp314昔の結婚は身分という格差(高慢、プライド)と偏見でうまくいかないことがあったが、現代は『現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、自分がない、ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います。』という結婚仲介所の女性が言った言葉から。そしてまさにうちの母親だよ、と思って読んでいたが、そんな母から逃れられた姉希美の言葉p184『ただ、母の心配が理解できて許せるようになったっていうわけじゃなくて、むしろ逆。心配が分かる分、自分の不安を優先して子供のことを信じなかった。子どもが自分で決めるまで待てなかったうちの親のことはますます許せないし、自分の子には同じことは絶対したくないなって思う』には心から賛成。さて真美と架のその後は?


「続 窓際のトットちゃん」 黒柳徹子 講談社 ¥1500+
劇場版アニメ公開に先駆けての出版と思われる。従妹より借り。前作は子ども時代の鐵子さんの就学前後のトラブルや良き人々との出会いから疎開までをえがいてお、不完全と思われる子どもであっても佳き師との出会いで人の形を作る様子が伝わって来たが、本作は芸能界に身を置く経緯と当時の人々との交流を描いてまさに「その後」である。親ガチャ、という言葉も聞きなれてきたが昔こそ更に厳しい格差があったのだなぁ、を実感。

9月12日(火)

「ハンチバック」 市川沙央 文藝春秋 ¥1300+税
芥川賞受賞後すぐ買われたお隣のkさんより借り。筆者の等身大の日常を描いているのかな?と思わせながら、ケアする人、される人の関係も鋭くあぶり出している。挑発的な表現の中に蓮に託してピュアな心もほのかに描いて新味のある作品。が受賞の理由かな?


「10歳の選択」斎藤孝 幻冬舎 ¥1320
もう私達世代には今更なんだけどなかなか子や孫にこんな話をする機会はないからせめて本という残る形に、と思い購入。早速大阪娘宅に置いてくる。新聞広告でも帯にも『自立の第一歩は自分で選ぶこと』とあるが、10歳くらいになるとある程度判断力もつき、自分で選ぶ場面も増えてくるから、という意味での本書らしい。中から更に共感できるものを抜粋。
p24、『「どっちでもいい」と思うときには運を天にまかせて気楽に決めて先に進んでみる。p86、迷った時にはチャレンジ。経験値が上がることは無駄にはならない。p136選択に失敗したとしても、それが分かっただけでもプラスだな、と考えて進む。
ま、親の方も子どもに選択やチャレンジの機会を与えられるキャパの大きさも試されるし、支配的な親にならないことも大事ですけどね。


「お探しものは図書室まで」 青山美智子 ポプラ社文庫 ¥740+税
2021本屋大賞2位。従妹より借り。大賞を読んでないので比べられないが、各章ごとにうまく解決していくのもレファレンスルームにいる小町さんの慧眼のおかげ。しかも素敵なヒントに自分から気付く、という所が面白く読める。


「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎 中公文庫 ¥840+税
p297『新東北自動車道から、新久喜白岡ジャンクションで新圏央道に入る』とあり、おーっと少しほくそえむ2作目は近未来のお話。で、ドローンを描いた「ゴールデンスランバー」だなー、と思いつつAi社会の共存とその後を警告のように味わう。本作も作家は未来を暗示する、と思いながら読める作品。2つの中編からなるが海族、山族という人間分類で描いているところは共通。p12、『「ひやかすなよ。ただ、嫁姑の大事な相槌『さしすせそ』を知ってるか?」「さしすせそ?砂糖、しょうゆ、お酢」ちょっと違う、と思いながらも私は言っている。「それは料理のだろ。こっちのさしすせそ、は、さすがですね。知らなかった。素敵ですね。せっかくですから。そうですね。」』なるほどー。ちょっとやましいことをしてしまいそうな時にp133、『背後に、二人分の視線を感じる。小学生の私と、中学生の私、彼らがこの今の私がどのような態度を取っているのかを、じっと観察しているのだ。』


「成熟スイッチ」 林真理子 講談社現代新書 ¥840+税
ご自分の力でいくつもの夢を実現した林さんは私達世代の成功者であると共に隠れた努力もさぞ、と思わせる。本書はこれからの指標になるべく描かれた林さんのエッセイ集。まえがきp9に書かれた『年を取って、後輩に成熟の素晴らしさを教えてくれる人と、老いの醜さを見せつける人がいます。若い頃には、それほど違いがなかったかもしれない人たちが、歳月を経ると、まるで別世界の住人のように振り分けられて行きます。成熟にも格差が生じてくるのです。」とは我が家事情としてあまりにもレアで至言。そして定時で終わる一見地味に思われる仕事に関してもご自分の体験を踏まえてp129、『きっかり五時で終わる仕事とは、自分の好きな時間をくれる仕事なんだ』と見方を変える捉え方を示してくれる。自分には関係ないところだが、定年を迎えた人が読書を始めようという時にp13、『自分が好きだと思う時代に関する本を読んでいくといいと思いますよ』とおっしゃるのもうなずける。


「DRY」 原田ひ香 講談社文庫 ¥740+税
これはいかにも、な犯罪小説ではある。しかしきちんと社会に出て給料をもらうこともできず介護の暮らしの中にいる、今でいうヤングケアラーの暮らしは介護される高齢者の年金頼みになることもある、というのは現実でもあろう。しかもあとがきにも力が入っており、タイトルの秘密も語られて改めて驚いたりして。美代子のリアルなひと言p233、『結構、皆、生活保護のレベルまで堕ちてるんだけど、それを知らないんだよね』とは申請主義のお役所仕事の現状を匂わせたりして。そして歴史的に見るとp343、水無田気流のあとがきでアダム・スミスが「労働」を「生産的労働」と「非生産的労働」に分け、家族のケアは「非生産的」であり、「価格による評価(交換価値)」はない、としている。この時代から、ということなのだ。


「ハピネス」 桐野夏生 光文社文庫 ¥720+税
雑誌「VERY」に連載された30代ママ友達の物語。従妹から借り。孫もいる身で言わせてもらうと、「〇〇ちゃんママ」という呼称から本人の名前で呼び合うことになってからが友達のスタートだよ。そこからスタートした友人が私にはいることに感謝。子供達はとっくにそれぞれの道を歩んでいるのに親はママも嫁もこなし、今やばーばになった者も。共通点は皆さん年金世代になったということ。内容に関してはタワマン4人、近くのマンション住まいの地元ママの5人組が子供を介してそれぞれの事情がからみあう。続くという「ロンリネス」に至るまでのラストでは主人公の有紗ちゃんは丸く収まったが意や・・・?

6月9日(金)

「スキマワラシ」 恩田陸 集英社文庫 ¥1177+税
恩田さん同好会?の従妹より借り。満を持しての文庫化の広告が出てすぐ互いにどちらが買うかラインしあう以心伝心。同じ作家を好き、と言うだけで親近感でもあるが本作は熱く語り合いたいと思うほどの一冊。陸さんワールド全開で時代が閉じる隙間に現れる女の子の姿を鮮やかに描く。若くして亡くなった両親、いたかもしれない女きょうだいを時間軸をずらしながら描き切ることで主人公散多の心を救ってゆくストーリー。そして恩田さんの示唆が本書のテーマのひとつとして語られる。p286『日本が?ダンケルクの戦いを?僕が聞き返すと、兄は小さく頷いた。どう考えても、すべてをダウンサイジングしなきゃならないわけじゃん?この先人がh減るんだし。うんと将来的にはまた増えるのかもしれないけど、当面は減ってくるのが明らか。だったら広い家も、大量の物資もエネルギーもいらないよねえ。日本だけじゃない。将来的にはどの国も、そうしなきゃならなくなる。もしかすると日本が最初、になるのかもしええないね。』という太郎兄さんのお言葉至言過ぎて巷で人生の終活やミニマリストの暮らしのようです。それでもハーメルンの笛吹少年とも違って女の子の様子が明るいのが救いで、華子さんに渡してくれた胴乱に入っていたのが種、ってノアの箱舟の方ですね。ちょうど朝ドラで放映中の牧野富太郎さんの話題も出ておりタイムリー。

6月4日(日)

「妖の掟」 誉田哲也 文春文庫 ¥800+税
なんとデビュー作「妖の華」から17年経て刊行されたシリーズ。ということで「妖の華」を読んでからこちらにとりかかる。時系列的にはこちらの方が3年前で欣治も生きている。というより欣治が亡くなった経緯を描いた闇神一族の物語。紅鈴という存在がスピード感ある展開をうまく泳いでくれている。嬉しい事に「妖の絆」「妖の群」も刊行される、ということで楽しみに。


「時生」 東野圭吾 文春文庫 ¥752+税
最低だった人生を救ってくれたのは未来の息子?死を迎えようとする息子がしてくれたギフトとは?読んだあとなら「生まれて来てよかったんだよ」と帯の言葉に言ってあげたい、ドラマ化もされた名作。


「あの家に暮らす4人の女」 三浦しおん 中央公論 ¥680+税
本友お向かいTさんより借り。南国パワーか、昨秋娘さんご夫婦にエスコートされて宮古島に行き、海に上がる虹をホテルのテラスから見て何かを受け取ったのか、以前より外を歩く機会が増えて良かったと思う。本書は善福寺川周辺のカラスの化身?善福丸や、佐和の亡父がミイラに乗り移って強盗から娘を救う、など荒唐無稽なところもあるが古い洋館でシェアハウス的生活を送る4人の女性と古くからの使用人山田氏の日常を描いていて微笑ましい作品。刺繡作家として暮らす娘の佐和アラフォーが友人や母と悠々と暮らせて羨ましい。


「ふるさと銀河線」 高田郁 双葉文庫 ¥600+税
こちらは従妹より借り。恩田陸、原田マハさんからスタートした本のやり取りだが、改めて彼女の読書の守備範囲の広さに感心、感謝。テレビ化もされた「みをつくし料理帖」の作者であり、レディースコミックの原作者でもあったが、借りた2冊は列車にまつわる現代の短編集。2022の大阪ほんま本大賞をもらっていたり、大阪城に行ったからではないが、一番好きだったのは環状線のT駅が舞台の『ムシヤシナイ』。主人公の駅そば屋店長の秋元が父子関係で暴発しそうになる孫が5年ぶりにすがってきたのに穏やかに救いの手をさしのべ再生させてゆく作品。父親を殺しそうだ、とまで追いつめられた孫の弘晃に対し葱をひたすら切らせて、p102『包丁は、人刺すもんと違う。ネギ切るもんや。この手ぇが、弘晃の手ぇが覚えよった。』と言って覚醒させた言葉は他の壊れそうな人にも知ってほしいし、こんな人生の先輩でありたい。あと『返信』という作品は北海道陸別が舞台で亡き息子が好きだ、と言っていた地を親夫婦が訪れて見上げた空から降る星の光に圧倒されつつ息子の存在を感じるシーンも自分が東日本大震災の大曲花火で感じた光と空気を思った。


「駅の名は夜明け」 高田郁 双葉文庫 ¥720+税
「ふるさと銀河線」同様『軌道春秋』の2シリーズ目の他は書き下ろしの短編もあり。どれも感じるのは再生と希望。お父はさん危篤で病院のホテルに詰めていた時に『YOU』の漫画原作募集の記事を見つけ父から受けた愛情を何かの形にしたい、と応募。デビュー後時代小説家に転身、後これらの作品を書くに至っている、とあとがきより。人生思い通りにならない、それでも生きる、というメッセージがひたひたと温かく伝わる。


「ギリギリ」 原田ひ香 角川文庫 ¥680+税
2015年の作共依存かと思わせる人間関係が煮詰まる中で各自が自由を見つけてゆく作品。結自分を捨てた母親を頼るんかい!と突っ込みつつ永遠に続く母子関係ってなー、と少し批判的に読了。


「背中の蜘蛛」 誉田哲也 双葉文庫 ¥820+税
誉田哲也好きの夫も買い私も買ってました、てへへ、の一冊。いかにも現代の犯罪、組織の計り知れない闇を描いた誉田さん、ここまで書くか、と感動より恐怖を感じる一冊。確かに現代はドラマよりも恐怖だ。


「流人道中記」上下 浅田次郎 中央公論社 ¥1700+税
姦通罪での切腹を拒んだ結果お家は取りつぶし本人は蝦夷へ流罪となった旗本青山玄蕃を彼の地へ送る役目を仰せつかった19歳の与力乙次郎との道中を描いた長編。最初は罪人と与力のスタンスを取りながら一か月をかけての北上の旅で真相を知り、人々を知る中で乙次郎が変わってゆくロードムービー作品。杉戸宿での初投宿から馴染みの街道筋を上がり弘前を経て平舘迄泊まる中での人々との交流を描くことで玄蕃の人柄が深みを増してゆく。一度訪れた事のある青函トンネルの入口、津軽今別も当時の今別として登場。今なら新幹線で日帰りも可能、と思いながら江戸の旅をゆっくり味わえる一冊。貧しい身分から努力して与力の家の養子となった乙次郎が15歳の妻!に送った手紙p270『僕は適塾でも、成績は人後に落ちたためしはありませんが、やはり物心ついたころから父母にあれこれ教わった家の子弟にはかなわない、と思うことがしばしばでした。家力とは別の、品性だの、良識だのというところで、僕は人に劣っているのだと思います。(後略)』確かに家庭の力の大切さを考えさせられる一文。但しこの分にもある通り江戸時代の若者が果たして自分の事を『僕』と言うのかはずっと気になるところ。


「ほどほどに快適生活百科」 群ようこ 集英社文庫 ¥540+税
群さんと言うと着物と等身大の文体。本書も衣・食・住・健康美容・お金などなど9項目に対しての処し方を描いている。


「ボクはやっと認知のことがわかった」 長谷川和夫 角川書店 ¥1300+税
NHKでもご家族と共に出演された特集をやったが認知症検査長谷川スケールの開発者で専門医の長谷川先生が90歳直前に認知症の発祥を告白、読売新聞の記者取材の下、生い立ちや現在の暮らしぶりを本にまとめたもの。働いていた頃に現場で実感した事を長谷川さんもスピリチュアルケアの章で話している。p143『認知機能は脳表面にあって、親の躾や学校の教育、社会から受けた教育など長年にわたるインプットの集大成です。この「認知脳」の下には喜怒哀楽の「感情脳」があります。そして、さらに、その下には人間の核になるその人らしさが詰まった脳があります。アルツハイマー病ではいちばん上の「認知脳」の機能が失われ、次に「感情脳」が壊れていくのです』

3月9日(木)

「我らがパラダイス」 林真理子 集英社文庫 ¥950+税
残念ながら見てはいないが現在BSでドラマ化されている。私だってお金があれば入居したいよ、と思う超が付く高級介護付きマンションが舞台。しかも今の日本、現実に住んでいる人もいるし。そしてその方たちを支える職員達にだって存在しますよ、切羽詰まった親の問題。そして彼女たちのささやかな犯行。桐野夏生さんの昔の「OUT」に似ているが、林さんらしい鋭い表現、p60『金持ちというのは、金を持っている者たちではない。何もしなくても金が湧き出る術をいくつになっても持っている者たちだ。それは株だったり、家賃収入だったり、企業の特別報酬だったりする。』うーん、この年になると納得。


「朝からスキャンダル」 酒井順子 講談社文庫 ¥610+税
この薄さで¥610か~、と迷いつつ買い。そこがエッセイの強みでもあり弱点にもなる。2015、7~2016、7の週刊現代所収のエッセイ。このころはベッキー不倫スキャンダルと熊本地震だったのねー、と遠い目。バブル時と違って地味不倫なのは女子がゴージャスさを求めなくなったのと今や中年男性と若い子ばかりでなく、3~50代家庭あり同士が増えているから?という切り口が時代を表しているわねー。思わずクスっと笑っちゃうのが、バブリー時リッチ不倫をしていた女子が年を経て結婚し,夫の不倫に悩むお年頃になってきた、という酒井さん世代ならでの微妙さ。10年くらい先輩の我ら世代は就職も介護もずーっと地味だったよ、とぼやき。私達は親世代に君臨された最後の世代であり、子どもへも気を遣ってしまう永遠の中間管理職だねー、と友とぼやきあうこの頃。


「一橋桐子(76)の犯罪日記」 原田ひ香 徳間文庫 ¥740+税
今年結婚40年を迎えんとする私達夫婦のバブルは子どもの大学の学費や下宿代が終了、社会人になって自分たちが共働きだった50代だわねー、と退職金も年金もダウンの世相の中で思う。孫夫婦に、銀行や闇金ローンで借りるくらいなら、と500万貸せるひ香さん大ヒット作「三千円の使い方」のおばあちゃん70代にはすでにひ孫まであり。本作は同年代ながら賃貸暮らし、年金とパートの収入に行き詰まり、同居していた親友の死もあり、こりゃあ三食冷暖房に介護付きの刑務所で暮らすことを人生の最終目標にした桐子さんがどのような落としどころを見つけるか、を描く。そうなの、年金世代になるとまず一番差が出るのが持ち家か賃貸か。そしてどの人にも救いになるのは生活保護。そして人間力、ということをひ香さんが示してくれる


「ランチ酒」 原田ひ香 ¥690+税
「三千円ー」以来すっかりひ香さんづいている。これはアラサー、バツイチ、娘との月一回の接見を心待ちに働く祥子さんの日常。夜に顧客を見守る仕事明けの朝昼兼用ランチを一日の食のメインにおいて大切にしつつアルコールも楽しむ。中学時代の友人二人に支えてもらって離婚後も暮らしていけて少し安心して読み進められる。


「マジカルグランマ」 柚木麻子 朝日文庫 ¥740+税
近頃ヒットでドラマ化もされた「三千円の使い方」同様元気で生涯現役意欲の高い75歳女子?の物語。やはりパワーの源はお金かーと思わされる一冊。そして共に持ち家あり、も大きいわ、と考えながら千変万化の正子さんの日常を楽しみつつ読める。


「おたがいさま」 群ようこ ハルキ文庫 ¥540+税
早期退職したキョウコが貯金でれんげ荘というアパートで暮らすうちにそこの入居者との緩やかな交流を育てていく様を描くが結局他のシリーズからの流れで猫に示す強い愛着が現実にもありそう。働くことを逆に考えるきっかけにも。


「高瀬庄左エ門御留書」 砂原浩太朗 講談社 \1700+税
「黛家の兄弟」から二冊目をお向かいさんから借り。共に全体としては地味な印象の文体、構成だが日常とはこういう日々の積み重ね、と納得させられる作品でもある。息子を亡くした主人公庄左エ門がむしろその後に新しい人間関係の中で立ち直ってゆく明るい作品。


「風神雷神」上下 原田マハ PHP文庫 ¥880+税
従妹より借り。白岡にじっくり滞在する迄従妹と本の趣味が合うとは知らなかったので新しい局面に感謝。上下巻の大作だが学生時代熱中して卒論にまでした遠藤周作さんが描いた時代だったので即読了。同時代の俵屋宗達とカラヴァッジョという二人の天才がイタリアで会う一日を描くロマンあふれるマハさんの筆力に脱帽。ある意味戦国時代の天才とも言える信長との出会い、遣欧少年使節との渡欧など一般人ならビビる局面をすいすいと泳ぎ抜く宗達の明るい軽さが天才の爽快さとして味わえる。


「はらぺこ」 朝井まかて他 PHP文庫 ¥840+税
昨日89歳を迎えたお向かいの本友Tさんより借り。Tさんらしいチョイス、と思いながら、朝井まかて、中島久枝、近藤史恵、五十嵐佳子、宮部みゆき各氏の料理をテーマにした短編集。皆さん何となくいつもとちがうタッチで時代劇の世界を描いている


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